詩-152 Edge Laneで僕は死んだ。

エッジ・レーンで僕は死んだ。

2013年1月の雹(ひょう)に叩かれて死んだ。

あるいは僕自身の目にも見えた僕の姿に嫌気が差して死んだ。それで僕は僕自身を離れて、飛んで消えていった。

ケンジントンのボロアパートの群れを、バスに揺られながら眺めていた。下車したとき、昨日の夕方、霧のなかで見た教会を思い出した。

 

何かがつながっていた。

そして何かが切れた。砕けていった。

きっとそれは親切で、僕のためだった。

 

それで、優しくも無慈悲に、無意味に時間が過ぎていく。今日1日が終わる。

終わりゆく今日の日に、お前は阿呆だと責められることもなく。

 

ありもしない、見えもしないピアノの音色を聴いて、死んだ。

エッジ・レーンの雑草と、バスの時刻表と、重苦しい雲のもとで僕は死んだ。

さようなら。おやすみ。そしてまた明日。明朝、再び僕は、雹に打たれて死ぬだろう。

 

 

 

 

 

 

 

詩-151 陸港

君は見たことがあるか
陸の港を
幾千、幾万もの道が流れる
陸の港を

私は値打ちのない 汚れた旅人、
旅人だった
暗闇が 雨雲が友達で
言葉も笑顔も携えなくなった
だから さあ
冬の光に 申し開きをする必要があるか
柔らかな百合の花束を 
赤いリボンのような女の笑みを
目に入れる必要はあるか
こんなむさくるしい男の旅人が
こんなに毛羽立った人間が

泥と雪で老け込んだ長靴で
心はひとり ボロをまとい
蛇のような 
大都会の道路のような
この冷たく不親切な道々を
連れ添う仲間もなく 歩む

そして雪がはらはらと
私に落ちる
私の目の前で 
私の心の底に落ちる

私は死んでは生き、
生きては死ぬを繰り返す
そして今日は再び戻ってきたような感覚だ
水溜まり 泥だらけの陸の港に。


James Dean Bradfield - THERE'LL COME A WAR

詩-150 across borders

初春に届いた

あなたの言葉は

間違いではない

疑いこそしたけれど

 

21世紀に生きる私たちは

オブラートの天蓋に覆われた

スノードームの住民のよう

目に見えぬ災いが

私たちを苦しめ 締め上げ

不必要な求心力を与えて しぼませる

 

それだからいまだに

景色は止まったまま

夜空の星々すら 

糊で貼り付けられたように

固まっている

 

にもかかわらず

あなたがあなたであり

私が私であることは

動きを止めることがなく

生々しい体温をもって 広がっていく、

血液のように

白昼夢のように

 

だから私は 

あなたの言葉を繰り返す

 

Across borders

 

Across borders

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

詩-149 これが嘘でないなら

私は 天空を 仰がない

槍で 突っつくことも しない

なぜなら 天空は

降りてくるから

 

もしも 私の抱く この感じが

もしも 上にあるものが

どちらとも 嘘でないなら

私は創作者ではなく 登場人物だから

話の展開は 作者ひとりに任せて

下にいればいい

 

もしも 私の抱く この感じが

もしも 

もしも 何も持たぬ 素直な見方なら

私が 泥土で塀を高くすることも

よって 考えることすらも

 

すべては焦りで

骨折り損なのだろう

 

 

 

 

 

イメージk

「お義父さん、今、何と?」

マーティン・レイノルズの背中の筋肉がビキッとひきつる。硬いマホガニーの椅子に腰掛けたまま、動けない。

「ジュゼッペ。封蝋が欠け始めているから、作り直させなさいーーー今、私が言ったとおりだよ、レイノルズくん」

ヨハンネス・ニールセン元中将は使用人のジュゼッペに封蝋を手渡す。ジュゼッペはレイノルズとニールセン中将とのあいだに流れていた空気が中将のひとことで一気に固まったのに怖じ気づき、封蝋を受け取るなり一礼してそそくさと書斎を出、階段を降りて行く。

ニールセンは机の上に置いた未使用の便箋数枚を角を揃えてまとめ、音も立てずに引き出しにしまう。3階にあるこの書斎からは、旧市庁舎分庁跡地に建てられたボウステン資料館の尖った屋根が見える(ハンス・ボウステンは17-18世紀ヴィレホウリウ王国時代の作家。首都スキャルケイルの特別自治区制を求めた運動の主導者でもある)。ニールセンは煙草をくゆらせながらしばしのあいだその屋根を眺めたのち、立ち上がっておもむろにレイノルズに向き直る。ただし、目を合わせることはない。

「ですがそれは婚約前にすでに話し合いでーーー」

マーティン・レイノルズはうろたえて髪をかき上げるが、翡翠の指輪に髪の毛が数本引っかかり、腕を下ろすと同時に髪の毛がプチッと根元から抜ける。思わず反射的に心のなかでキャッと叫ぶ。指輪と指の隙間に絡まった髪の毛1本を、震えるもう片方の手で引き抜く。

ニールセン中将はその冷徹な青い目を壁の絵に向ける。まるでレイノルズを視界に入れず、飛び越すかのように。

「私はね、レイノルズくん。私自身は当時まだ子どもだったけれども、あのとき君にも話したように、父が特別自治推進派の押さえ込みに尽力した軍人だったのだよ。陸軍であれ海軍であれ、私たち軍人は国王の命令とあらば従わざるを得ない。そして個人的にいっても、父は残留派だった。スキャルケイルは王国から離れるべきではないと。私も残留は正しかったと考えている。一方、君は特別自治推進派の家系の出身だね。最急進派と言っていい。先頭切って活動していた、あのアヴァリエ派だ。君を含め、哲学者や文学者、その他もろもろの逸材を輩出してきた家系だけはあるね」

「僕はこう見えても政治には全く……」

「そこは問題ではないんだよ、レイノルズくん。君が問題ってわけじゃないんだ」

「それならなぜ」

ニールセン中将は椅子に腰掛けると、レイノルズの顔を真正面から覗き込む。ふたりが今日、顔を突き合わせるのはこれが初めてである。

レイノルズは、短く整えられた義父の白髪混じりのブロンドの髪を見て、この1年半で義父がずいぶんと年を取ったような印象を受ける。ニールセン中将は右の眉をつり上げ、怒りに満ちた目で答える。

「アヴァリエ派のなかに、私の父を殺害しようとしていた小集団があった。実際彼らは、父のもとに爆弾を送りつけてきた。ごくごく小さな爆弾だったが、父の代わりに小包を開けた使用人の男性が、運悪く爆発によって指を切断した。今私が雇っている使用人のジュゼッペは、その男性の子孫のひとりだ。そしてその小集団のなかに、君の身内にあたる人間がいた。君からはやや遠縁の人だから、君すら詳しい話は聞いたことがないかもしれないが。今回、改めて調べさせてもらったよ」

両目を大きく見開いたまま固まってしまったマーティン・レイノルズの頬に、ニールセン中将はそっと右手を伸ばし、悲しげに微笑む。

「マーティン。これでも私は1年半、娘と君の幸せをいちばんに考え、持ちこたえてきたつもりだよ。けれども、申し訳ないーーー娘とは別れてくれ。離婚してくれたまえ」

涙がレイノルズの頬を伝い、ニールセン中将の右手を濡らす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死に色の夢+これからどう生きていけばよいのか

ここ1週間、心身ともにとても調子が悪い。

これを読んでくださる方にしてみたら、「そりゃ、飛躍し過ぎでしょう」と思われることだろうけども、自分、そもそもこの世に生まれてきてはいけなかったんじゃないかと。少なくともこの20数年間は、そんなことを毎日のように漠然と考えながら、そしてそんな考えを持つに至ってしまった自分を何とかなだめすかしながら、それこそ何とか生存してきたんじゃないかなと(振り返ってみて)思う。

三者の人々は、当然、この「振り返り」をしない(なぜならこれは私ひとりが私ひとりで抱えてきたことだから)。だから、そんなの飛躍に過ぎるだろうとか、大袈裟だとか、もっと明るく楽しく前向きにとか、恐らくその手の反応の仕方をするだろうと思う。

 

自分には、頻繁に想像する景色と、理想の自己像があって。

例えばそれは、我が愛しのキェルケゴールも一度は抱いた、「田園風景広がる地方の牧歌的な環境に身を置いて、信仰について考える」ということであったりする。おこがましいけれど、そういうところだけは、自分はどうもキェルケゴールに酷似している。

ただ、キェルケゴールと違って自分が夢に見る牧歌的風景というのは、始まりへ向けての始まりではなく、終わりに向けての始まりの姿であるように思う。私ひとりがそこにいて、私ひとりで空を見て、私ひとりで何か楽器を奏で、私ひとりで小川の流れを見ている。

陽射しはうららかで、すべてがとても穏やかで、よくわからないけれど「何かが止まっている」感じ。そのまま景色を切り取って、額縁に入れて飾れるんじゃないかと思うくらい、すべてが満足して止まっている。

こういうのってやっぱり、死にたいってことなんじゃないかなと思う。もうこれ以上、苦しみたくないという。

いろいろね。振り返りたくなくても振り返ってしまうことは往々にしてあるもので。その振り返りを重ねていったら、やっぱり自分みたいな者はどうしたって、「生まれてくるべきではなかった、人と関わるべきではなかった、一日でも早く行って(逝って)しまったほうがいいだろう」という結論を出してしまいがちになる。

まあ、人と関わるべきではなかったと言っても、大切な友人はいるし、尊敬する学者さんもいるし、出会いは決してムダではなかったのだけどね。自分としては、その人たちが元気でいてくれさえすれば、もうホント、他に大したことは望まないのだけど。だって、所詮は「この世」じゃないの……。自分は、もう、そこには関わりたくないのよね。社会がどうのとか、口だけの支え合いとか思いやりとか、(社会)人としてどう生きるのが正しいんだとか、そういうことは、もう、いらない。大切な人たちのことだけはきちんと頭と心に置いたうえで、ひとりになりたいと思う。

 

 

 

 

 

詩-148 即興永久宣言

君の声がなくたって

あなたの言葉が蔑んだって

誰が誰でなくなったって

わたしは僕は ここにいる

 

近未来カプセルのなか

船室のような 孤独な書斎のなか

わたしは僕は

大昔にそうであったように

わたしとして僕として

本物で ここにいる。