2021.04.06 散文詩

よろしいよろしい、まずもって君は自由だ。だからこの白い木箱の外側に、ダリの髭を描こうが、元気いっぱいはちきれんばかりに回転する四分音符をピンで留めようが、それは君の自由だ。 ただし、箱の中身はすっからかんにしておきなさい。内側の四隅のいずれ…

2021.04.05 散文詩

心傷つくことは人が人として人らしく成るための条件だ。傷ついた君は身を横たえた姿でその手を伸ばして、君ひとりが信じるものに向かって喉から苦痛の言葉を絞り出せばいい。 そうだ。 君の手、てのひらは、目の前に置いた銃のバレル、その一つひとつの表面…

2021.03.19 散文詩

この曲をひとりで聴いたらあの人はどんな反応を示すだろう?僕はYouTubeでとあるオルタナ・ロックバンドの楽曲を聴きながら思った。昨日の僕も今朝の僕も、てんで頭が働かず、その人への返信メールを仕上げることが叶わない。と言うよりも、素直に白状するな…

tête-à-tête 134

『ねえ親父さん、僕、おやつ買ってくるよ。コーヒーはいつものでいいよね?』 『おお。爺さんにも生姜飴を買ってきてくれ』 『母さんはリンゴ飴のほうが好きだったんじゃけどなあー』 『そうな、それで一度喉に詰まらせて死にかかったもんな。婆さん、あっち…

tête-à-tête 133

1904年3月14日。ホワイト・ヘイヴン、入国審査場。午後2時。ひとりの女性が入国審査手続きを終える。60代前半とおぼしき女性審査官は手続きとは別に、彼女に私的な質問をした。 『そのネックレス、とっても素敵ね。翡翠……でいいのかしら?』 質問を投げかけ…

tête-à-tête 132

1904年、3月14日。ホワイト・ヘイヴン市内のエスター通りにある、ストラストヴィーチェ書店。平日の午後2時。マーティンはシリルから届いた手紙を読みながら、いつもどおり会計カウンター横のデスクで店番をしている。 マーティンへ、 暇だから書いてみた。 …

tête-à-tête 131

1901年3月下旬。ホワイト・ヘイヴン市の北にある、シュタステン湖国立公園。シリルとリディアはその国立公園から鉄道で10分ほど市内寄りの町にその日の宿を決め、公園の入口で入場券を買い、湖までの小道をふたりで歩いていく。リディアはシリルの右腕に自分…

tête-à-tête 130

1901年3月下旬。ビレホウル王国の首都、スキャルケイル。レイチェルの父、ヨハンネスの邸宅。レイチェルは夫のピーターと別れてからというもの、ずっとこの邸宅にひとりで暮らしている。午後3時ちょっと過ぎ。レイチェルは久し振りにピーター、アイリスそし…

tête-à-tête 129

『それはそうと、』 シリルは台所のシンクに片付けたワインボトルを振り返ってちら見し、ふざけ顔で話を続けた。 『3人揃ってとりあえずの祝勝会だってのに、マーティンお前、ひとりで飲みやがって』 『僕は何にも勝ってないよ、』 マーティンは膝を抱え、…

tête-à-tête 128

『ふたりには笑われるかもしれないけどね、』 マーティンは涙を拭いて立ち上がり、食器棚の戸を開けた。その中には以前書籍の整理をしたときに納めた植物図鑑などが、そのまま綺麗に並べられていた。マーティンはそのうちの1冊を手に取って、悲しげに微笑ん…

tête-à-tête 127

『やっぱり何度見ても綺麗だ、表彰ものだな』 『ありがとう。あなただって、すっごく素敵よ、』 その日の夕方。シリルとリディアはマーティンの自宅玄関前に立っている。シリルはワインレッド色をしたくるぶし丈の長いドレスに身を包むリディアを見て、感嘆…

tête-à-tête 126

『いててててっ、しみるしみる、しみるってばよ!』 マーカスとシリルの自宅。マーカスの部屋でシリルはマーカスの額の傷の手当てをしている。マーカスはベッドの端っこに腰掛けたまま、目をしばたたかせて不平不満をこぼす。 『ちょっとさあお前、こういう…

tête-à-tête 125

『あんたは狂ってる。狂ってるよ、』 シリルは爆発寸前の怒りと吐き気を必死にこらえながら、リディアの父、ポールに言った。 『何が情熱的な時間だ。この子の、自分の娘の心身ボロボロにして、何が愛する娘だよ。ふざけんのもいい加減にしろよ!』 『なあ。…

tête-à-tête 124

ホワイト・ヘイヴン市内最大の市場、キャストレー東中央市場。3月中旬、平日の昼下がり。ひな壇の上に骨董品が並ぶ露店の前で、リディアはシリルに笑いかけて言った。 『ねえ?このお猿さん、私の部屋に置いてみたらどうかしら』 シリルは両手にシンバルを持…

tête-à-tête 123

レニー・クレセントの住宅街の前に広がる、大きな公園。フランが出ていったあと。マーティンはブランコに乗り、リディアが後ろからその背中を押している。シリルは少し離れたところで煙草を吸いながら、マーティンにたずねた。 『お前ってもしかすると、溜め…

tête-à-tête 122

ホワイト・ヘイヴン市内、レニー・クレセントという通りにあるシリルの家。午前10時25分。1階の台所兼食堂で、マーティンと彼の父親フランがテーブルを挟んで座っている。ふたりのそばにはシリルとリディアもいて、シリルは腕組みをして台所のカウンターに…

tête-à-tête 121

酒場『ブラック・マスト』の裏。隣の貴金属商店とのあいだにできた細い通り道に、数人の青年たちと初老の男性がいる。商店の外壁に寄りかかる男性を取り囲むようにして、青年らは立っている。そのうちのひとり、背の高い金髪の男性が、地面に置いたトランク…

tête-à-tête 120

『眠れないから床で転がって遊んでてもいい?』 『服が汚れるからよしなさい。こっちでちゃんとベッドに入って寝るか、自分の部屋へ戻るかしなさい』 リディアとシリルの自宅。マーティンが帰っていったその日の夜。リディアはシリルの部屋に来て、じゅうた…

tête-à-tête 119

ホワイト・ヘイヴン市内、リディアとシリルの家。3月の初旬。平日の午後7時。古書店での仕事を終えたマーティンがふたりを訪れ、台所で赤ワインをラッパ飲みしている。そばで見ていたシリルは眉をひそめて忠告する。 『お前、下戸なんだから。頭痛持ちなんだ…

tête-à-tête 118

『そう。こんな感じで、届かないものなんだよ』 1875年9月、ビレホウル王国の首都スキャルケイルにある、マーティンのアパート。マーティンとレイチェルは暖炉の火の前で向かい合い、互いの足の裏をくっつけて座っている。その日はふたりで昼食を作って食べ…

tête-à-tête 117

ホワイト・ヘイヴン市、リディアとシリルの自宅。日曜日の午前8時半。リディアは自分の部屋で、両脚を肩幅に開いて壁の前に立ち、壁に貼りつけたハート型の標的に照準を合わせ、両手で拳銃を構えている。 『お前にはどう見ても似合わない、』 リディアのベッ…

tête-à-tête 116

『珍しい客が来てるぜ、おい』 ホワイト・ヘイヴン市内の繁華街シトルリアにある、酒場【ブラック・マスト】。土曜日の夜9時。店内は20代、30代の若者たちでごった返している。そのなかでひとりだけ、ゆうに60代後半は超えているであろう男性が、飲み物を片…

tête-à-tête 115

ホワイト・ヘイヴン市内の中央図書館分館。2月27日の土曜日、午前10時。マーティンは先日と同じように、3階の児童図書コーナーにいた。前回と違うのは、資料探しが目的ではないということだった。児童図書コーナーからは司書らのいる貸し出しカウンターが見…

tête-à-tête 114

『俺ちょっと外で煙草吸ってくるわ、』 ホワイト・ヘイヴン市内の繁華街シトルリア、酒場【ブラック・マスト】の隣にある喫茶店。シリルはマーカスがマーティンとそつなく会話できているのを見て、席を外す。 『マーティン、数分のあいだ、マーカスを任せた…

tête-à-tête 113

『立ち会い人?俺たちが?』 ホワイト・ヘイヴン市内の繁華街、シトルリア。マーティン、シリルそしてマーカスが揚げ芋を買い食いしながら目抜き通りを歩いていく。夕方の5時前。マーカスはマーティンとシリルの会話にはほとんど興味がないらしく、ひたすら…

tête-à-tête 112

ホワイト・ヘイヴン市内にある、かつてシリルが訪れた教会。2月23日の午前11時。祭壇の手前から入口付近にかけてびっしりと並べられた長椅子のひとつに、眼鏡をかけた気弱そうな青年と白髭の司祭が並んで座っている。司祭は穏やかな笑みをたたえて青年に言っ…

tête-à-tête 111

『あいつ、もしかしたらこういう場所で落馬して死んだのかもな、』 ホワイト・ヘイヴン市の西の郊外にある、広大な自然公園。シリルは氷の張った池のそばで佇み、リディアのほうを向いて笑った。3月も目の前だというのに、この国の景色はどこへ行っても中途…

tête-à-tête 110

マーティン、 親父さんと話す必要があるとき、他に落ち着いて話せそうな場所がないとき、使ってくれ。どうせ金目の物なんて何ひとつ置いてない、がらんどうの家だ。それにお前のことは従兄弟として信用している。人ん家の物を盗むようなヤツじゃないってこと…

tête-à-tête 109

ホワイト・ヘイヴン市内のシリルの空き家。 その家は幸い、リディアの自宅からは東に歩いて10分程度の地区にあって、しかもマーティンの自宅方面へとつながる通りに建っていた。シリルとリディアはマーティンに会ったあと一度自宅に戻り、鍵を取ってきてから…

tête-à-tête 108

『カレンさん、今日もシニアお爺さんのこと、よろしくね』 ストラストヴィーチェ書店、会計カウンターの奥にある部屋。午前10時。マーティンはストラストヴィーチェ・ジュニアが雇った家政婦のカレンに、シニア爺さんを託す。カレンは50代半ばで、肝っ玉母さ…