tête-à-tête 82

1885年、ビレホウル王国、首都スキャルケイル。シリルとリディアの住むアパートメント。シリルの父親が入院している精神病院に勤務する女性看護師が、シリルからの連絡を受けて駆けつける。シリルは玄関の呼び鈴が鳴るなり、急いでドアを開けた。 『どんな容…

tête-à-tête 81

『おいしい』 エスター通り、ストラストヴィーチェ書店の真向かいにある、こぢんまりとした食堂。通りの往来を観察できる窓際のカウンター席に、シリルとリディアは隣り合って座っている。リディアは注文したハムサンドイッチをひとくちかじると、シリルのほ…

tête-à-tête 80

1872年、春。スキャルケイル市内のヤンセン孤児院。シリルの部屋。リディアがシリルの目の前で、自分と父親とのあいだに起きていることをぶちまけたあと。ふたりはベッドの端に寄りかかり、膝を抱え、隣り合って床に座っている。 『ごめんなさい。ごめんなさ…

tête-à-tête 79

リディアとシリルの自宅。教会から戻ってきたシリルは【白鳥さん、今日もよい子で】のメロディーに合わせて玄関ベルを鳴らす。これはリディアとふたりで決めたことで、リディアがひとりで家にいるときは、このメロディ以外のベル音には応対しなくていいとい…

tête-à-tête 78

ホワイト・ヘイヴン市内のリディアとシリルの家。午前10時。ひと晩中シリルを『寝ずの番』で見守ったリディアは、シリルの予想どおり深い眠りについている。シリルは1階の台所兼食堂に降り、テーブルの上にまとめておいた数冊の小さな絵本を手に取った。 そ…

tête-à-tête 77

1872年、春。シリルが捕まってからおよそ2週間後の、木曜午後6時。ビレホウル王国の首都スキャルケイルにある、イステル第2女子高等学校の寮の正門。授業を終えたリディアが門に向かって歩いている。数メートル後ろには4、5人の女の子のグループがいて…

tête-à-tête 76

ビレホウル王国の首都、スキャルケイル。1901年1月18日。レイチェル・ニールセンは亡き父親の邸宅の主寝室にいる。彼女は暖炉のマントルピースの上に置かれた小箱を開けると、翡翠の指輪をそっと取り出し、微笑みながら左薬指にはめてみる。 『ほんっとあの…

tête-à-tête 75

1872年、春。スキャルケイル市内にあるヤンセン孤児院。水曜日の午後1時。リディアがシリルの部屋に駆けつける。聞き慣れた足音とノックの音とを聞いて、シリルがドアを開けた。 『どうした。授業は』 『今朝、部屋に警察の人が来たの』 シリルはリディアを…

tête-à-tête 74

『え?僕が店主?』 『この前言ったじゃないか。万が一店を譲りたくなったら、こっちから言うって』 ホワイト・ヘイヴン、エスター通りのストラストヴィーチェ書店。マーティンが会計カウンターの隣の机で、持参した手作りの揚げサツマイモをつまんでいる最…

tête-à-tête 73

ホワイト・ヘイヴン市内のシリルとリディアの家。シリルがマーカスを連れてマーティンに会いに行ってから数日後の夜。リディアは自分の部屋のベッドに腰掛け、テーブルに飾られたシリルとの記念写真を愛おしげに眺めている。するとシリルが部屋のドアをノッ…

tête-à-tête 72

ホワイト・ヘイヴン市内のマーティンの自宅。マーカスは裏庭に出て、マーティンのY字型パチンコで小石を飛ばして遊んでいる。シリルは食堂の掃き出し窓を少しだけ開けさせてもらい、マーカスに声をかける。 『寒いから、長居するなよ』 『イエス・サー』 マ…

tête-à-tête 71

1872年、ビレホウリウ王国、首都スキャルケイル。春。こぬか雨が降り、生暖かい南風の強く吹きつける日だった。午後3時18分。固い表情をしたシリルがひとりヤンセン通りを歩いている。シリルは今日もポール・ソーントン氏の自宅で庭掃除の奉仕活動を課され…

tête-à-tête 70

『ところで、さっき言ってた【イケメン】って単語、どういう意味?』 『馬を走らせたらピカイチの男、くらいのことだろう、きっと』 『え?なになに?マーティンって馬好きなの?』 『なんかあらぬ方向に会話が進んでいる気がするんだけど。まあ、いいか』 …

tête-à-tête 69

マーティン、 手紙、ありがとう。 俺は文章書くのがうまくないので、手短に。 月・水・金が空いているということなので、来週、いずれかの日に自宅に伺います。時間は午後2時頃を見ておいてほしい。 リディアも行きたがっているので、連れていきます。 ただ…

tête-à-tête 68

シリルへ 私の大好きなシリルへ。この世でいちばん優しくて、温かくて、大切なあなたへ。 あなたには感謝しなくちゃいけないことが、沢山あります。 まず。あなたはなんにもできない私に代わって、そう、私が具合の悪いときはいつだって、温かい食事を用意し…

tête-à-tête 67

『このサイズだと1枚93プリエになるけど、それでよろしい?』 ホワイト・ヘイヴン市内、シリルとリディアの自宅から歩いて7、8分のところに最近できたばかりの写真館。黒い丸縁メガネに大きな耳をした50代前後の男性店主が、シリルにたずねる。シリルはリ…

tête-à-tête 66

ホワイト・ヘイヴン市役所。1901年1月10日。マーティンは1階奥の住宅課でぶらぶらしている。それを見た窓口の女性がマーティンに声をかける。 『何かご相談でも?』 マーティンは笑顔で振り向いた。 『えっと。今すぐにってことではないんですけど』 『よ…

tête-à-tête 65

突然失礼いたします。リディア・ソーントンさん、ですね?私どもは、こういう者ですが。大変、申し上げにくいことなのですが、……数日前、ご実家のお父様が何者かによって殺害されました。 なあその煙草って、ムショの労働で得た報酬? 鮭のステーキ、それか…

tête-à-tête 64

ホワイト・ヘイヴン市内、シリルとリディアの自宅近くにある公園。午後4時。リディアは昨日からまた昏々と眠り始めている。シリルは外の空気を吸うため、また自宅に届いたマーティンからの手紙に目を通すため、ふらりと家を出て公園のベンチに腰掛けた。1…

tête-à-tête 63

『……そう、それでね、ヘンな木馬が出てきたんだよね、夢の中でってことだけど』 『ゴアスチェル木馬船じゃないか、それ』 『ゴアスチェルって?』 ホワイトヘイヴン、エスター通りのストラストヴィーチェ書店。今日もマーティンはストラストヴィーチェ・ジュ…

tête-à-tête 62

1872年、シリルの住むスキャルケイル市内のヤンセン孤児院。午後2時。いつもどおりシリルとリディアは、小さな木の机を挟んで向かい合って椅子に腰掛け、勉強をしている。部屋の唯一の出窓からは初春の光が差し込み、穏やかな小鳥のさえずりが聞こえてくる…

tête-à-tête 61

将来、市民一人ひとりの自由意志による拳銃の所有が認められるよう、私たちはこうして『流通作業』を推し進めているわけだ。資金繰り?実際の武器調達?心配ない。何だかんだと言ってこの150年近くものあいだ、言論統制維持派の人間も保守派の人間も私たち…

tête-à-tête 60

1877年、ビレホウル王国、首都スキャルケイル。クリスマスの夜。マーティンとレイチェルは、レイチェルの親族との会食のあと、店を出てふたりきりで街頭を歩いている。マーティンは申し訳なさげに話す。 『こういうの、全くの未体験で、全然勝手がわからない…

tête-à-tête 59

リディアとシリルの家。台所兼食堂。ハンナは席に着くと、目の前に出された『2つ目小僧』の目玉焼きを勢いよくフォークで突き刺し、皿の上でキーキー音を立てて白身を切り分けようとする。ナイフをうまく使えないハンナをシリルが横で助ける。 『お前、それ…

tête-à-tête 58

1900年12月31日。ホワイト・ヘイヴン市内のリディアとシリルの家。午前8時ちょっと過ぎ。リディアは昨日の夕方早くにシリルの部屋に来て眠った。シリルは静かにベッドから出る。リディアは丸1日、あるいは2日に渡って昏々と眠り続けるときがあった。今朝…

tête-à-tête 57

『今日で良かったかもね。1日だったら、どうだろ、ひょっとすると開いてなかったかも』 ビレホウル王国の首都、スキャルケイルの中心部。エレナ・エスタゴー庭園墓地。1901年1月3日。広い庭園の一角に造られたこぢんまりとした墓地を、レイチェルとマリオ…

tête-à-tête 56

シリルの住む孤児院。シリルは奉仕活動先から帰宅する。2階にある自分の部屋へ向かうと、ドアの向こうから笑い声が聞こえてきた。シリルはすぐにマーカスだとわかった。『勉強相手』であるリディアとマーカスが自分のいない間に訪問に来たときにはいつでも…

tête-à-tête 55

ビレホウル王国の首都、スキャルケイル。1872年、春。シリル・ジョン・レイノルズのいる孤児院。1階にある、孤児たちのための連絡室と主調理室がつながるエリア。この連絡室で孤児たちは奉仕活動の当番内容を確認することになっている。この日もシリルはいつ…

tête-à-tête 54

ホワイト・ヘイヴン、マーティンの自宅。空き地でシリルに会ったその翌日。珍しく、早春のように暖かな日の正午。マーティンは1階の台所で、複数の木箱や紙袋の前でしゃがみ込み、箱と袋の中身をひとつひとつ取り出しては、右と左に分ける作業を繰り返して…

tête-à-tête 53

『いや、いいよ、僕、夕方前には子どもたちを送っていかなきゃいけないから』 ホワイト・ヘイヴン市内、マーティンの自宅近くの空き地。シリルが差し出したウイスキーをマーティンは丁重に断る。シリルはつまらなそうな顔で瓶の蓋を開け、代わりに自分でらっ…