もうそろそろの時分です-25

(類の家にて。) 「ね、お味噌汁作ってくれたのは嬉しいんだけど、長ねぎの輪切りがぜーんぶつながってるんだよね、芽衣さん。何をどうしたら、こういう不思議なことになるのかしら?」 「すべての輪っかに箸を通して遊ぶのはどうでしょうか」 「食べ物で遊…

もうそろそろの時分です-24

(引き続き、教会敷地内にて。) 「えと。えーっとですね」 「You don't have to tell me if you don't want to. And, if I made you feel uncomfortable, I'm deeply sorry. I apologise」 「いえ。大丈夫です。それでですね、答えはnoです」 「Oh. Glad to…

もうそろそろの時分です-23

(10月。教会敷地内の小さな池の前にて。) 「ほれほれ、皆どもよ、盛大に食らいつきたまえ」 「……そこにいるのはマリヤさんですか?」 「ああ、ワシリイ掌院。こんにちは」 「マリヤさん、お祈りにはあまり出ないのに、なぜか突然現れるね。今何時ですか………

もうそろそろの時分です-22

(9月下旬。とある森林公園にて。) 「どうでもいいけど胡座かいて手のひら空に向けて瞑想って、あなたどういうクリスチャン」 「しっ!今ポッキーと闘ってるんだから」 「ポッキーと闘ってるって何よそれ」 「欲だよ欲、欲に抗う力を貯めるんだ」 「ポッキ…

もうそろそろの時分です-21

(引き続き、聖書研究会の教室にて。) 「私とセラフィムさん、スコットランド人とイングランド人なのに、日本のお茶飲んでいるね。不思議ね」 「なんならワシリイ掌院、僕レッドブルとビールでも買ってきましょうか」 「私、ダイエットしないといけないから…

もうそろそろの時分です-20

(9月中旬。聖書研究会の教室にて。) 〈セラフィムさん、あそこにいる人。彼女の名前はマリヤさんといいます……声をかけてみてください……〉 「はいマリヤさん、そこで寝ない」 「……すみません」 「……というわけで、私たちクリスチャンは皆、最後の審判の日の…

もうそろそろの時分です-19

「あなたが?トイレの棚にトイザらスで買った亀の置き物を6つも並べてるあなたが?」 「うん」 「食器棚開ければお皿やコップの代わりにチロルチョコとキットカットがぎゅうぎゅう袋詰めで保管されてる、みたいなあなたが?」 「うん」 「畳んだアマゾンの段…

もうそろそろの時分です-18

(引き続き成田空港にて。) 「今まで気づかなかった?勘ぐってみたことはない?」 「ええ……っとその……、まああの、ないことはないんだけども……」 「じゃ、なんとなくはわかってたのね」 「いやあの、かといってそこまでは……」 「鈍いとこあるもんね、あなた…

もうそろそろの時分です-17

(成田空港。朝の8時過ぎ。) 「いやー、やっぱり12時間フライトは体に楽だ。全部手配してくれちゃって、ありがとう類」 「どういたしまして。あなたのメールにあったハイレベルな要求すべてにはお応えできませんでしたけど。ところで体調ホントに大丈夫?」…

もうそろそろの時分です-16

(翌日の午後。教会近くの日本庭園にて。) 「昨日のお話にはびっくりさせられました。類も、ねえ?」 「うん。まさかと」 「驚かせてしまいましたか。それはごめんなさい。でも嘘よりはいいね」 「確かにまあ、そうですけど。でも掌院、大丈夫ですか」 「私…

もうそろそろの時分です-15

(グラスゴー市内の某教会。礼拝後。) 「マリヤさんとルイさん、なぜあなたたちはここにいますか?!」 「掌院。お疲れさまです」 「お疲れさまです司祭さま」 「質問の答え、聞いてないね。なぜあなたたちはここにいますか」 「掌院。私は右手でこれを差し出…

もうそろそろの時分です-14

(グラスゴー市内、某教会の近く。) 「あなた歩きながらサラダ食べるのマナー違反よ、禁固325年」 「このプラスチックフォーク、ほんと使いにくい。レタス刺さらんかった。えーっと、ゴミ箱。えい」 「まあ、食欲が戻ってきたのはいい兆候だね。てゆーかそ…

もうそろそろの時分です-13

(7月中旬。朝の成田空港。) 「カレドニアン・スリーパーは予約できなかったし日程も1週間ずれたけど、フライトとお宿は確保できたから許してね」 「ああもう全然オッケーだわよ。ありがとう」 「それでね、私、機内持ち込み荷物の中にね」 「芽衣さんの…

もうそろそろの時分です-12

「はいはーい、類です」 「あ、類?今、大丈夫?」 「全然平気。家にいる」 「定男さんはどうしてる」 「うちの定男さんならおとなしく寝てるよ。どうしたの?」 「あのさ、以前ロンドンで食べたベジタリアン・フル・ブレックファストがおいしかったのよ」 …

もうそろそろの時分です-11

(教会敷地内のベンチにて。午後8時。) 「暗闇でハーゲンダッツっていうのもいいね」 「あったかい季節で良かった。でないとポンポン冷えちゃうやん」 「私ラムレーズンなんだけど、芽衣は?」 「抹茶」 「ひとくち、いる?」 「みくちほどいただきたい」 …

もうそろそろの時分です-10

「あ、目、覚めた?」 「……今、何時?」 「うーんとね、21時48分」 「ごめん。食べてしばらくしてから寝ちゃったんかいな?」 「サラダ作り置きしておいた。そのあとすぐ帰るつもりだったけど、戸締まりが心配だったから芽衣が起きるまで待ってた。合鍵なん…

もうそろそろの時分です-9

「あ、お疲れー芽衣」 「いやーホントお疲れだったわい」 「めっちゃ暑いしね今日。最高気温36度だって」 「午前9時に給食の白衣みたいな洗礼着被って、それはそれはもう暑かった。待った?」 「ううん、最初から20、30分早く来て遊んでるつもりだったから。…

もうそろそろの時分です-8

「そんなことはないです。メイさんはカークガードの『愛のわざ』読みましたか」 「愛のむちですか」 「それは正しいタイトルではないですね」 「失礼しました。いえ、まだ一部しか読んでいません」 「the love for the deceasedはthe most selfless loveなの…

もうそろそろの時分です-7

(2010年11月26日、新木場studio coast。) 「半券落としましたよ」 「え?私の?いやいいですよ、ドリンクチケットじゃないし」 「でもこういうの記念に持って帰りませんか?あ、すみません。初対面なのに」 「いやいやいや、全っ然。いやその自分はね、ギ…

もうそろそろの時分です-6

「相変わらずの狭さなんで。ごめん」 「ああ、もう全然。カバンはここでいい?」 「うん。Tusind tak」 「Det var så lidt. もう7時かあ。芽衣、お腹空いてる?」 「少しね」 「良かった。じゃ、なんか作る。冷蔵庫開けていい?」 「いいけど中からペニーワ…

もうそろそろの時分です-5

「今んところ誰にもバレてはいないね、プラトーク被ってるし。何ならウィッグつける日もあるしね」 「とりあえず、てっぺんだけで良かった」 「てっぺんね。トン……あー気持ち悪」 「大丈夫?出しちゃう?」 「……いや、……大丈夫」 「トンって?水飲む?」 「…

もうそろそろの時分です-4

(教会敷地内のベンチにて。) 「ああ、マリヤさん」 「Archimandrite Василий !こんにちは」 「座っていいですか?」 「もちろん」 「何を見てますか」 「スマホでYouTube」 「どんなvideoですか」 「Mock The Week」 「Mock The Week!マリヤさん、Mock The…

もうそろそろの時分です-3

「へー。電車ん中で会ったんだ、その修道司祭さんって人と」 「うん。人が静かにひとりで本読んでるときに声かけてきやがった。野の百合、空の鳥ですねって」 「なんでタイトル知ってたのその人。日本語できないんでしょ」 「その日は英訳版読んでたんよ。普…

もうそろそろの時分です-2

「前へ行けば?あなたもう洗礼受けたんだし」 「いやいやいや。私はいいです。隅で座ってますよ。あ、こんばんはーアナスタシアさん」 「どうもー。マリヤさん、聖所でお祈りしないの?あたし行っちゃうわよ、10年かかって帰正したんだもん」 「すごいなやる…

もうそろそろの時分です-1

「あれ、随分と膝小僧が黒ずんでますね、両方とも」 「あー、私よく伏拝するんですよ」 「伏拝ってイスラム教?」 「ううん、クリスチャン」 「へー、そうなんだ。どうします?ピーリング用の石けんだったら受付カウンターに置いてあるから、ひとつ買ってい…

2021.05.21 Emergency Room

What do you mean, you can't come? ーI can't come to the ceremony today because the cistern's broken. What? What is broken? ーI said, the cistern isssss broken. You can't just cancel everything at the last minute like that. And Professor Mö…

2021.05.21 散文詩:楽屋にて

「今夜の舞台後に楽屋でお会いできますことよ、」と彼女は言った、「手ぶらでよろしくってよ」と。そう言われてもさすがにそうですかと手ぶらで行くわけにもいかない。僕は考えあぐねた結果、ブーケの花束ひとつ、それからケーキとビスケットの詰め合わせを…

2021.05.12 散文詩:君みたいな僕でゴメン

ふとね、君の発した言葉の意味を、ようやく理解したような気がした。飲み込んだ気がした。 僕も君とほぼ同じ。僕にも再訪したい町があって、も一度思い出したい景色があって、再会できたならと願う異性がいて、再び遭遇したい月夜があって。 なぜゆえ、君と…

2021.05.03 散文詩:人類、皆ねじ曲げ屋

いや、In vino veritasとは言うけれど、僕には酒をつがないでください。酒に酔った勢いなるものが僕の内からあなた方にとって一見真新しいものを引き出してくれようが、僕に岩のように硬い後悔を味わわせてくれようが、実のところそれらはおよそ何ひとつ真っ…

2021.04.28 散文詩:Let His Secrets Be His Own Secrets

午前。木枠の窓を開けて、実すぐりの済んだ隣家のりんごの木を眺める。こうして眺めている僕自身の姿をふざけて誰かにロートレック風に描写してもらい、遙か遠くの街に住む彼に贈り物として郵送できたら面白いだろうにと思う。 暇だから想像してみたのだが、…