詩-171 私

夜の縦縞模様のなかで 黄金色の耳飾りが きらきらちらちら黙って揺れている、 それが 私 白雲浮かぶ異国の青空、 一直線にそびえ立つラジオ局のタワーのように 嘘をつかずに言葉に向かい 溶け 入る それが 私 あなたを岸壁の灯台みたいに白く建て 絶対に消さ…

詩-170

晩秋の朝 あなたの向こうに、私のなかに 憂いと疲労、溜め息と永遠がたゆたうのを 夢想する心の底辺で耽溺している 鏡の前で 琥珀色のイヤリングを着け 紅を差して髪を下ろし 遠くすら見ようともしない目で再び溜め息をついた、 私はこのまま どこまで続くの…

詩-169

私は自分では欲しくもない絵画をあてがわれ、不当な値段で買わされた、 何ひとつ、 何ひとつ、望んでやしなかった。 そして、現金一括のはずが、今もこうしてどす黒い、毒づいた月賦を支払わされている、 だからこの身は痩せ細る一方で、あばら骨が冷たく整…

詩-168

コートを羽織り しゃがんで革靴の紐を結び 帽子をぐいと被り 立ち上がったならば戸を開ける 見上げた青と白とのマーブル模様が じわりと目にしみる、 まるで指先でくゆらせた 葉巻の煙のように 見えないこと見せぬこと 消えること消せることを 私に許可して…

詩-167 大丈夫

あなたが あるいはこのわたしが 目の前にあるこのはしごを わき目もふらず 一直線に登り詰めようと それとも中途で腰が抜けて じたばたおどおど助けを待とうと それともやけっぱちになって はしごの最下段で飲んべえになろうと あなたとわたしが空を見ている…

詩-166 具材

私は具材 カルツォーネや シェパード・パイみたいに 生地に包まれた具材 人参や玉ねぎや豚のひき肉みたいに 小さく小さく刻まれてしまった具材 絞られて 封じられて 押し込められて 上から潰された 中身 たぶんそれなりの味を期待されるだろうけれど 残念な…

詩-165 現存の書

真に悲しみにうちひしがれる者の前では口を慎み、 彼らから君の内へと伝わる流れを知り、学べ。 けれども君の沈黙が、誤解や彼らの重荷にならないように。 金をむしり取る教会へは行くな、 君らの真心までもが絞り尽くされる。 瞬間、という、小さな小さな点…

詩-164 ランドノーティング

僕は笑って願った、 何も見えない今から 何かが見える次へ そして心に小さな小さな 淡い色の花を ブローチみたいに留めた 僕は『さあ、ものは試しだ』と 黒のブーツを履いて 歩き出す 微笑みをくれるもの 泣きたくなるもの もっともっと知りたくなるもの そ…

詩-163 いとしいもの

いとしいものを眺めると 笑みがこぼれます いとしいものを想うと 涙が流れます これらいとしいものはどれひとつとして 私の輪の中には入ってこないし 私もこれらいとしいものの輪の中に 入れたためしはありません けれども私は泣くのです 胸を焼かれて 泣く…

詩-162 見かけ

あなたはサイボーグ 表面がつるりとして くすんだ銀色で 太いパイプみたいに 直立してる だけどその体内には たくさんの工場があって せわしない生産活動が 太陽のもと 繰り広げられてる 時計工場、 鍛冶屋、 印刷工場、 それから食肉加工場まで 汗 埃 熱 ギ…

詩-161 小休止

あなたについて考えない あなたについても考えない あなたについてもやっぱり考えない こうした休みは至福 至福 至福 至福 なぜなら僕は昨晩 愛する人に向かい 沢山のお話をしたから 僕は部分日食 隠す側と 隠される側と それがわかったから 真夏の夜のわん…

詩-160 あなたひとり

ひとり 通りに立つ ひとり 街を歩く ひとり 天を仰ぐ ひとり 運河を心に描く ひとり 住まいの階段を昇る ひとり 鏡の前で顔を洗う ひとり 花瓶の花を整える ひとり 窓からの風を胸に吸い込む ひとり 豆のスープを飲み ひとり 羽根枕に頭を乗せる ひとり ひと…

詩-159 秋

秋は来る あなたのほつれた髪を見ても 何とも思わなくなったときに 秋は来る 赤ん坊のようなあなたの手指を見ても 心が揺れなくなったときに 秋は来る あなたを想像しながら 自分の鏡に向き合わなくなったときに だからそのとき 秋はやって来る 私からすべて…

詩-158 蠢くもの

夏 冬 関わりなく 私の腹を掻き回し 自転する もの 大きな大きな蚤のような 邪悪とも 安らぎとも取れる おまえ おまえよ 私が悪かった おまえを感知しない私は おまえの体に傷をつけ おまえを藁の束のように手荒に扱い、投げつけ おまえを無視し おまえの動…

詩-157

クルマから列車から 外を眺めちゃいけない 冬の雨降りの夜なんか 観察してちゃいけない記憶なんかやめて 君を消すんだ 楽になることを 時には選んで 円錐形の先っぽに向かうように 吸い込まれればいい君は誰だ、さあ誰だ その問いかけこそ 大切だ 塗り直せ、…

詩-156

馬鹿げた夜を思い出した、 馬鹿げた景色を思い出した、 馬鹿げた熱狂を思い出した、 馬鹿げた恋と僕自身を思い出した、君がまったく違う方向を見ているのは良いことだし 僕がまったく違う方向を向き始めたのも良いことだろうあの暗がりは とても美しかったけ…

詩-155

僕は灰色から つまらない銀色に固まった 夜はとても綺麗な 深いラベンダーと群青色で 僕に写真を撮らせてくれたのに そして 時間も 止まってしまった 嘘だと信じたいことが 僕の見えないところで 起きてしまう 古びたカメラのフィルムが ひらひら ひらひら …

詩-154 空、鳥、赤い消失

僕は君のようには言わない 言えない 言いたくない 心がないから これは続きようのないことだから君がそう言うなら そういうつもりなら 僕を手放すことが 君が僕にくれる いちばんの贈り物飛ばせて ここから 君から 離れさせて 君は僕の幸せじゃ、ない。 JJ72…

詩-153

君は死なない、君は死なない だから託した 夢を 笑顔を 可能性を託した君を心から愛すと言えば嘘になる、 けれど君を創り出し 育て上げたことに 虚栄はない 分銅ひとつ分すら インクひと壺分すら クッキー1枚分すら ないのだよ それどころか 花が咲いたのだ…

詩-152 Edge Laneで僕は死んだ。

エッジ・レーンで僕は死んだ。 2013年1月の雹(ひょう)に叩かれて死んだ。 あるいは僕自身の目にも見えた僕の姿に嫌気が差して死んだ。それで僕は僕自身を離れて、飛んで消えていった。 ケンジントンのボロアパートの群れを、バスに揺られながら眺めていた…

詩-151 陸港

君は見たことがあるか 陸の港を 幾千、幾万もの道が流れる 陸の港を私は値打ちのない 汚れた旅人、 旅人だった 暗闇が 雨雲が友達で 言葉も笑顔も携えなくなった だから さあ 冬の光に 申し開きをする必要があるか 柔らかな百合の花束を 赤いリボンのような…

詩-150 across borders

初春に届いた あなたの言葉は 間違いではない 疑いこそしたけれど 21世紀に生きる私たちは オブラートの天蓋に覆われた スノードームの住民のよう 目に見えぬ災いが 私たちを苦しめ 締め上げ 不必要な求心力を与えて しぼませる それだからいまだに 景色は止…

詩-149 これが嘘でないなら

私は 天空を 仰がない 槍で 突っつくことも しない なぜなら 天空は 降りてくるから もしも 私の抱く この感じが もしも 上にあるものが どちらとも 嘘でないなら 私は創作者ではなく 登場人物だから 話の展開は 作者ひとりに任せて 下にいればいい もしも …

詩-148 即興永久宣言

君の声がなくたって あなたの言葉が蔑んだって 誰が誰でなくなったってわたしは僕は ここにいる 近未来カプセルのなか 船室のような 孤独な書斎のなか わたしは僕は 大昔にそうであったように わたしとして僕として 本物で ここにいる。

詩-147

その木は言う、私に言う 千年経っても 見えるもの見えないもの 両方のすべてが見えると たとえ洪水で根こそぎ剥がされ 干ばつの日に身が裂けても 天に伸び 突き刺さって 諦めることなく すべてを見 すべてを感じると だから約束したまえと 木は言う、この私…

詩-146 赤い涙

私は流す 赤い涙を流す 血生臭い ただれたざくろのように 白い建物が倒壊した 煙と埃を上げて倒壊した 世界をパズルの始めに戻すかのように 数メートル先も見えぬ戦場で 太陽だけは痛くまぶしく輝く その銃口を私に向けてご覧、 たとえ片眼を失っても この景…

詩-145 図書館

やい そこの少年 キミは学校で習ったか 教室と校庭と 体育館の裏で習ったか 要領良く 有終の美を飾るには 要領悪く 行かにゃならんのよ だからキミたちもーーー 「へ、へ、へぇっくしょーーーん!」 競馬新聞読んでるおやじと 星占いに夢中なお姉さんの 白い…

詩-144 達磨と時間

達・磨 だ る ま ダルマ!!みたいに ボクは生きてる サテン地の みかん色した ふにゃけた座布団の上で 笑ってるんだか はたまた泣いているんだか とりあえず良くわからぬビー玉みたいな目ンコロふたつを回転させて 脚のない姿で 座っとるよ 目の前に 時間がい…

詩-143

詐欺で構わないのです、 あなたがくれる詐欺ならば 黄色い 金平糖のような星がたったひとつ、 それしかない最後の「黒夜」に シーツもろともずぶずぶ背中から沈み 白い布と羽根のつり革が部屋の天井から伸び 私を引き上げ 最後の笑顔を保管してくれるのなら …

詩-142 心象風景

心に 深奥に 蓮華草やら パンジーが咲く カミソリのように鋭い葉 あまがえるに 水滴、蒸気、光、雨粒 蓮の花 掘る えぐる 引き返して 引き下がって 奥、奥深くへ 姿が見えなくなるまで