tête-à-tête

tête-à-tête 104

ホワイト・ヘイヴン市内、マーティンの自宅キッチン。マーティンは淹れたばかりの紅茶をカップに注ぐと、盆にカップと砂糖の入った小さなガラス瓶を置き、食器棚の横に吊した麻袋からレモンをひとつ取る。そしてナイフでレモンを真っ二つに切ると、片方だけ…

tête-à-tête 103

『確証はないけどとにかく隠れておこう、』 ホワイト・ヘイヴン市内の市場出入口から一歩入ったところにある、小さな横丁。リディアの腕を強引に引っ張り、買い物客のあいだを縫うようにして急いで市場を出たシリルは、リディアを建物の陰にかくまう。リディ…

tête-à-tête 102

ホワイト・ヘイヴン市内にある中央図書館分館。2月13日、土曜の午前10時。3階の児童図書コーナーでマーティンが資料を閲覧している。幼い頃、家に絵本という絵本がなく、親にも読み聞かせをしてもらったことのないマーティンには、子どもたちがどんなものを…

tête-à-tête 101

翌朝、シリルの部屋。午前5時を回ったところ。目を覚ましたシリルは、自分の隣で眠るリディアをじっと見つめている。この子には化粧なんかいらない、シリルはそう思った。リディアは初めて会ったときから、周囲の女の子とは違っていた。他の子だったら気にし…

tête-à-tête 100

シリルとリディアの自宅。教会から逃げ戻ってきたシリルは、2階の自分の部屋で画材を処分しようとしている。するとリディアが盆に紅茶とコーヒー、それからケーキを乗せて部屋にやって来る。リディアは部屋の隅にどかされたシリルの古い油彩画やデッサン画…

tête-à-tête 99

ホワイト・ヘイヴン市内。マーティンの自宅で1泊してから数日後の昼の2時。シリルは煙草を買いに家を出る。 その日は昨日までとはうって変わって、随分と暖かくうららかな日だった。シリルは近所のよろず屋で煙草を1箱だけ買う。釣り銭をミリタリーコート…

tête-à-tête 98

『今日は泊まっていってよ。2階の空き部屋、物置き場になっちゃってるけど、あとで僕、荷物どかすから』 ホワイト・ヘイヴン市内のマーティンの自宅。レストランでの会食後、マーティンはシリルとマーカスを自宅に招き入れる。午後9時45分。ふたりを廊下に…

tête-à-tête 97

『グレービーソースは足りてる?シリル』 『はい、大丈夫です。ありがとうございます』 ホワイト・ヘイヴン市内のとあるレストラン。午後7時37分。マーティンはシリル、マーカス、ブリジットそしてヨハンネスの4人を一度自宅に集めてから、予約を入れておい…

tête-à-tête 96

1857年9月2日。ビレホウル王国の首都スキャルケイルにある、ジョンとシボーンの自宅。 午前10時過ぎ。シボーンは夫のジョンが出かけているあいだを狙い、旅行鞄に身の回り品を詰め、ひとり息子のシリルを着替えさせる。 『さあ、出かけるわよ、シリル』 『ど…

tête-à-tête 95

『カンカンカンカン、はい、起きてーっ!』 ホワイト・ヘイヴン市内、シリルとリディアの自宅。土曜の朝8時。マーカスはフライパンを持ってシリルの部屋に乗り込み、大きなスプーンでフライパンを叩いてシリルを起こしにかかる。シリルは羽根枕を両手で引っ…

tête-à-tête 94

『やっぱりそういうことか、』 ホワイト・ヘイヴン中心部にある美術図書館、3階閲覧室。ここは階全体が閲覧所になっており、40、50台の書見台が等間隔でズラリと設置されている。そのうちの1台の前にマーティンは立ち、とある画集のページを1枚、1枚繰っ…

tête-à-tête 93

『俺が殺したんだ、俺が殺したんだ……、』 ホワイト・ヘイヴン市内、エスター通り。1901年3月。午後4時。シリルはひとり、同じ言葉を繰り返し繰り返しつぶやきながら、ストラストヴィーチェ書店へと向かう。 『俺があいつの父親を殺したんだ、俺が……、』 歩く…

tête-à-tête 92

1874年3月、ビレホウル王国の首都スキャルケイルにある中央刑務所。スカーフで頭を深く覆った白いワンピース姿の小柄な女性が、しずしず刑務所内の面会室へと歩いていく。ここで刑期を務めていた19歳のシリルは、ちょうどその日が20歳の誕生日だった。入所し…

tête-à-tête 91

1855年9月。ビレホウル王国の首都、スキャルケイルのキール通り。午後3時。ブリジットが婦人服店から紙袋を抱えて出てくる。すると通りの反対側から、乳母車を押す髪の長い女性と背の高い男性がこちらに向かって歩いてくる。ブリジットはふたりが誰であるか…

tête-à-tête 90

ホワイト・ヘイヴン市内、シリルとリディアの住む家。シリルは自分の部屋のベッドで大の字になってぼんやりしている。伸ばした右手の先には、マーティンから初めてもらった手紙がある。シリルは全身をぐっと伸ばすと、枕元にあるその手紙を掴んで、仰向けの…

tête-à-tête 89

『うん。確かに。確かにそう書いてある』 ホワイト・ヘイヴン市内、ヨハンネスの家。 ヨハンネスとブリジットそしてマーティンが食堂のテーブルに着いている。テーブルの上に置かれた油彩画を見て、マーティンは答える。ブリジットはコーヒーをひとくち飲む…

tête-à-tête 88

ホワイト・ヘイヴン市内。1901年2月1日。レイチェルの父ヨハンネスと友人のブリジットが、蚤の市が開かれているキャシュトーレ通りをぶらついている。午後2時。光沢のある薄茶色の毛皮のコートに身を包み、指先には深紅のマニキュアを塗ったブリジットは…

tête-à-tête 87

『私ね、よく子どもの頃、綿飴とか、ちっちゃなチョコレートを買いに、お小遣い握り締めて近所のお菓子屋さんへ行ってたよ、』 シリルとリディアの自宅キッチン。リディアはジャムの空き瓶に、ストラストヴィーチェ・シニアから貰った4プリエ分の硬貨を入れ…

tête-à-tête 86

『え。随分、酷い話じゃない?それ』 1875年、ビレホウル王国、首都スキャルケイルの南部にある丘。夏。午後8時。野原に腹這いになり、横にはランタンを置いて、マーティンとレイチェルはスキャルケイルの街並みを見渡している。あたりは明るく、軒先に灯り…

tête-à-tête 85

1885年、ビレホウル王国、首都スキャルケイル。シリルとリディアの住むアパートメント。看護師の助けを得て、シリルはリディアをベッドに寝かせる。酒をあおったおかげで脚に全く力の入らないリディアの体は、痩せているとはいえシリルひとりで引きずるには…

tête-à-tête 84

『え。いやいや、さっきも言ったけどさ。僕、まだ買い取りなんてわからないから、いいって』 ストラストヴィーチェ書店の会計カウンターの奥にある部屋。マーティン、ストラストヴィーチェ・シニア、それにシリルとリディアが丸いテーブルを囲んで座っている…

tête-à-tête 83

ホワイト・ヘイヴン市内、エスター通り。シリルとリディアは食堂をあとにし、通りを挟んで真向かいにあるストラストヴィーチェ書店へと歩いていく。シリルは古い絵本が数冊入った袋を手に携えている。書店の窓ガラスに近づくと、ガラスに刻まれた白抜きの店…

tête-à-tête 82

1885年、ビレホウル王国、首都スキャルケイル。シリルとリディアの住むアパートメント。シリルの父親が入院している精神病院に勤務する女性看護師が、シリルからの連絡を受けて駆けつける。シリルは玄関の呼び鈴が鳴るなり、急いでドアを開けた。 『どんな容…

tête-à-tête 81

『おいしい』 エスター通り、ストラストヴィーチェ書店の真向かいにある、こぢんまりとした食堂。通りの往来を観察できる窓際のカウンター席に、シリルとリディアは隣り合って座っている。リディアは注文したハムサンドイッチをひとくちかじると、シリルのほ…

tête-à-tête 80

1872年、春。スキャルケイル市内のヤンセン孤児院。シリルの部屋。リディアがシリルの目の前で、自分と父親とのあいだに起きていることをぶちまけたあと。ふたりはベッドの端に寄りかかり、膝を抱え、隣り合って床に座っている。 『ごめんなさい。ごめんなさ…

tête-à-tête 79

リディアとシリルの自宅。教会から戻ってきたシリルは【白鳥さん、今日もよい子で】のメロディーに合わせて玄関ベルを鳴らす。これはリディアとふたりで決めたことで、リディアがひとりで家にいるときは、このメロディ以外のベル音には応対しなくていいとい…

tête-à-tête 78

ホワイト・ヘイヴン市内のリディアとシリルの家。午前10時。ひと晩中シリルを『寝ずの番』で見守ったリディアは、シリルの予想どおり深い眠りについている。シリルは1階の台所兼食堂に降り、テーブルの上にまとめておいた数冊の小さな絵本を手に取った。 そ…

tête-à-tête 77

1872年、春。シリルが捕まってからおよそ2週間後の、木曜午後6時。ビレホウル王国の首都スキャルケイルにある、イステル第2女子高等学校の寮の正門。授業を終えたリディアが門に向かって歩いている。数メートル後ろには4、5人の女の子のグループがいて…

tête-à-tête 76

ビレホウル王国の首都、スキャルケイル。1901年1月18日。レイチェル・ニールセンは亡き父親の邸宅の主寝室にいる。彼女は暖炉のマントルピースの上に置かれた小箱を開けると、翡翠の指輪をそっと取り出し、微笑みながら左薬指にはめてみる。 『ほんっとあの…

tête-à-tête 75

1872年、春。スキャルケイル市内にあるヤンセン孤児院。水曜日の午後1時。リディアがシリルの部屋に駆けつける。聞き慣れた足音とノックの音とを聞いて、シリルがドアを開けた。 『どうした。授業は』 『今朝、部屋に警察の人が来たの』 シリルはリディアを…