詩-16 拝啓 愛さま

拝啓 愛さま

 

今日はお食事 いかがでしたか

鱒に鮎に蝦蛄

冬瓜に南瓜に大根

薄い澄まし汁は

あなたのように上品で

椀に浮かぶ手鞠麩が微笑み返しそうです

私が膳を共にしたいと願うのは

あなただけ

 

薬箱に裁縫箱

薬用酒に缶の筒

ガラスケースのなかでは日本人形が舞い

畳縁に沿うように 座布団が一枚

縁側の障子を開け放てば 庭と池

あなたの部屋に初夏の風が吹き抜けるさまを

今もありありと思い出せます

 

仏前で拝むあなたの 丸い背中

幼き日の私はきゃらきゃらと笑いながら

いつもいつもあなたのあとを追った、

今だってあの背中を

こうして追っているのです

 

気がついておられましたか 

大切なのはあなただけだということに

 

愛さま

私のたったひとりの ひいおばあちゃん

あの夜私の目の前でくずおれたあなたすら

傷のない思い出なのです

大好きよ おばあちゃん

私の体を あなたひとりの血で満たしてください

いつか私が召された日には

背中をさすり

しわだらけの手を握らせてください

その日の夕餉はふたり分

私が用意いたしますから。