詩-34 小猫

僕は真冬のさむしいシャッター街

コートのポケットに手を突っ込んで歩いていた

枯れ葉だの ガムの包み紙だの

金具の外れたキーホルダーだのが

歩道に落ちていた

肩からずり落ちるリュックを背負い直そうと

ポケットから手を出したら

硬貨が1枚飛び出した

硬貨は歩道を滑るように転がり

数メートル先の角を 右に曲がった

追いつこうとして 

僕も角を曲がったら

袋小路のゴミ捨て場に

段ボール箱に入った小猫を見つけた

小猫は汚れたクリーム色の毛をして

目やにがへばりつき

鼻水が口まで垂れていた

腹を空かせきったのか

鳴く気力も失い

段ボール箱の底で 腹這いになっていた

僕は 何もできないと知りながら

小猫をすくい上げ まじまじと眺め

伸びきった後ろ脚をさすった

きっと僕には

何もできない

何も感じない

ただ 目の前にある このやつれた塊を

置き去りにもできない

だって僕だって置き去りにされたし

君たちだって一度くらいは

置き去りにされたことがあるだろう

後ろから殴られたような衝撃の暗闇で

死にかけたことは あるだろう

だから僕は

歩道に落ちた硬貨を拾って

店で何か食い物を買って

この小さな小さなけものに与えようと思う

何の幸せも

何の喜びも用意されるどころか

訪れるのは再びの闇だったとしても

僕は食い物を細かくちぎって

この小さな震えるけものに与えたいと思う

それが僕にできる

精一杯の麻痺しかかった愛の形だから。