春は
最終章であり
序章でもある
ざらつきのない
光る殻
丸くて クリーム色で
小さくぽつんと まとまっている
たまごはふと少しだけ思い出した、
空を見上げて笑った日のことを
自分の行き先を憂うこともなく
ただ笑っていた日々のことを
たまごは願う、
雨上がりの青々とした芝生に身を潜めたなら
夜露と雨粒に体をこわばらせることなく
大の字に寝そべって 太陽を見たいと
春の陽射しのもと
すべてが消え 死に 終わり
つるりと殻が剥けるとき
たまごはやっと自由になって
頬に伝う涙を舐めて 信じ始める
自分が消える必要のないたまごであることを
自分を少し責めながら 信じ始めるのだ
自分が消える必要のなかったたまごであることを。