マーティン・レイノルズは白い部屋の真ん中に置かれた、水晶のテーブルの前に座る。同じく水晶でできた椅子を引き、軽く姿勢を整えると、テーブルナプキンを膝の上に広げる。
ドアがキキキュイイと小さく鳴き、農夫のセルゲイが食事を持って入ってくる。セルゲイは前歯をむき出しにし、笑顔で言う。
『夕食をお持ちいたしましたぜ、ムシュー(旦那)。鮭のシチューにパン、それからロゼワインをグラスに1杯』
『白はないのかい』
俺は教授、博士。旦那と呼ぶな、とレイノルズは心のなかでふて腐れる。
『先ほど地下の貯蔵庫まで行って確認してきたんですが、今はあいにくロゼとアップルサイダーしかござんせんで。クルトンはいかがですかい、ムシュー』
『ああ、いただくよ。でもアップルサイダーで良かったのに。僕はリンゴが好きでね。どの産地のものも』
『それならサイダーは明日の夕食にでも。ささ、ムシュー、bon appetit!』
『それじゃありがたくいただくよ、セルゲ…』
『あああっと、ムシュー、失礼、忘れておりました』
レイノルズはフォークに伸ばしかけた左手を引っ込め、セルゲイの顔を見上げる。
『なんだいセルゲイ』
『旦那にお渡ししたい物があるんですわ』
そう言うとセルゲイは、ほつれたズボンの後ろポケットから薄い冊子のようなものを取り出す。
『3枚綴りのクーポン券でござんす。旦那からいただいた翡翠の指輪、あれを鑑定に回しまして、まあ質屋ってやつですか、そこで引き換えに貰ったもんでさあね』
『いただいたって。正確には没収だろう。で、そのクーポン券っていうのは?』
レイノルズはナイフとフォークを構え、鮭の身をリズミカルに切る。
『あなたの願いを叶えます券、でございます。ホワイト・サンクチュアリへ行くまでのあいだに、旦那の願いを3つ、どーんな願いでも構いませんぜ、それを叶えてさしあげます』
レイノルズはナイフとフォークを音を立てて起き、わざとらしく大きなため息をつく。
『セルゲイ!頼むからその笑い方やめてくれないか。ここへ来てすでに4回は君の前歯を見てる』
セルゲイは性懲りもなく歯をむき出しにして笑う。
『それはそれは失礼いたしやした、旦那。それじゃああっしはおいとまします。クーポン券の期限は白馬車が到着する日まででござんす、まだ時間はたっぷりありますやね。明朝、下のホールでお会いしましょう。ほなさいなら』
セルゲイはそう言って帽子を取ると、くるりと自分の前で回し、うやうやしく一礼して退出する。