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応接間のカーテンを開け放つと、マリオンはテーブルの上の金魚鉢へと歩み寄り、ぎょろ目で中の金魚数匹を眺める。

『ねえ母さん、』

マリオンは金魚にパン屑をやりながら、そばで書棚の整理をしている母・レイチェルに声をかける。

『ちょっと、前から聞きたかったことなんだけどさ』

レイチェルは黒縁メガネを少し下にずらし鼻に引っかけた状態で、1冊1冊本のタイトルを見ていく。最近目が疲れて仕方ないのよね、もう歳ね、と心のなかでつぶやく。脚立に乗って上の棚に腕をぐっと伸ばせば、肩も痛む。

『うーん?何?』

マリオンは自分も金魚のようにパン屑を口に運びながら、半ば呆けた調子で母親にたずねる。

『あのさ、不思議だなと思ってたわけ。色が』

『色?色って何の』

『なんで僕だけ黒髪なのかなって。アイリスと父さんは茶色、母さんは銀』

『それはお兄ちゃんが突然変異種だからよ』

妹のアイリスが応接間にやって来て言う。マリオンは視線を金魚鉢の金魚からアイリスに移す。

『種って、あーた。俺からしたらあなた様の方が突然変異種ですよ。兄貴より背が高いんだから』

アイリスは長くほっそりと伸びた手脚を伸ばし、バレエダンサー気取りで兄に一礼する。

その傍らで母親のレイチェルはふたりに背を向けたまま、黙って本の整理を続ける。書棚の最上段に納められていた赤い背表紙の文学全集のうち、背表紙の角に1箇所切れ目の入った1冊を取り出す。ページを繰ると、まえがきの第1ページと第2ページのあいだに、オニオンスキンの小さなメモ用紙が挟み込まれている。そこに書かれている文章に目を通すと、レイチェルは黒縁メガネを外して小さな脚立を降りる。そしてマリオンに向かって笑って答える。

『そう言えばあなた見たことなかったものね。お母さん、これでも元は黒髪だったの。若白髪ってやつかしら、30過ぎてからあっという間に、これ』

そう言って再び書棚に向き直ると、レイチェルは唇をとがらせ涙目で一点を見つめる。