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《あたし、一生恨み続けるの。人間が、あたしの妹をあたしから引き離したことを。》

 

《あたしのこと、舐めないでちょうだいね。ほら、あと数十メートルも行けば、冷えっ冷えの湖じゃないーーー》

 

スキャルケイル西方にある郊外の田舎町、ノーヤウ。その西県境に接する寒村地帯・ノルルスコウに半分入り組むようにして、ノーヤウ湖はある。

 

ある真冬の昼。快晴、気温は零下7度。広大に広がる葦の草原は白い太陽に照らされて乾ききっているが、ノーヤウ湖の表面には氷が張ったままである。

 

その葦の平原を、白と薄茶の毛をした牝馬が、ひとりの男性を乗せて走っている。牝馬は小刻みにいななきを繰り返し、軽やかに歩を進めていく。

 

牝馬の吐く息と、その体全体から立ち昇る蒸気のせいで、男性の視界は白く遮られかかっている。危険だと判断した男性は、綱を引き、馬の動きをいったん止めにかかる。

 

牝馬は歩みを止める。が、しかし次の瞬間、狂ったようないななきとともに突然上半身を起こし、猛スピードで前方のノーヤウ湖めがけて走り出す。

 

《ごめんなさいね、学者さん。

あなたに恨みがあるわけでも、あなたに罪があるわけでもないの。そう、何もない。ただあなたは、運が悪かっただけーーー》

 

向かい風が追い風に変わる。牝馬の尻尾は鞭のようにしなり、その尻をピシャリと叩く。牝馬は耳を緊張させ、両目から火花を散らす。

 

《突っ込むわよ!》

 

バリバリバリッという音と激しい水しぶきとともに馬は湖に落ちる。馬上の男性は数メートル先に投げ飛ばされ、勢いよく湖面の氷に背中と頭を打ちつける。

 

牝馬は一度すっかり水中に沈みきると、4本の脚で水をかき、すぐさま水面に浮かび上がる。氷をかき分け岸に戻り、地面に前脚を引っかけて水から上がる。そしてその勢いのまま、水しぶきをあげ、西方の寒村地帯・ノルルスコウへと走り去って行く。

 

男性は氷に全身を叩きつけられて意識を失い、その頭と口から濃赤茶色の血を流している。胸の上に乗っていた右腕が流れるようにだらりと脇に垂れると、男性の下の氷はおもむろにミシミシと音を立て、彼の体を飲み込み始める。赤いマーブル模様が水中に徐々に広がっていく。そして男性も、気泡に包まれながら、徐々に徐々に湖底へと消えていく。