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『箱、外で開けてきたよ。大丈夫、何も怪しい物は入ってない』

17、18歳の使用人見習いの青年が、小箱と包み紙、シルクのリボンを手に、台所へやって来る。

『良かったじゃないの。もうすぐ旦那さまの書斎から戻ってくるはずだから、渡してあげて』

木椅子に腰掛けて、たった今茹でこぼしたばかりの空豆の薄皮を剥きながら、女中のアデルは青年に言う。青年は皿に盛られた熱々の空豆をひとつ失敬しようとするが、すぐさまアデルにピシャリと手の甲を叩かれる。

『お気の毒さま、あんたにやる豆はひとっ粒もないよ。バター取ってきて。いつもの棚のなかに入ってる』

『はいはい、わかりました』

青年は小箱と包み紙をテーブルに置き、リボンを指に巻きつけて鼻唄を歌いながらバターを取りに行く。するとジュゼッペがヨハンネス・ニールセンの書斎から戻ってくる。アデルは顔を上げ、空豆の山から視線をジュゼッペに移す。

『おかえんなさい。あんたに贈り物が届いてるよ。外でマークに確認させたから、大丈夫、危険な物は入ってない』

『ありがとう』

ジュゼッペは盆に載せた小さなグラスと薬瓶を、シンクの脇に置く。

『それでどう、具合は』

『うん。さすがにね。70も半ば過ぎるとね。今までとてもお元気に長生きされてきたけどね。箱の中身、見させてもらうよ。じゃ、またあとで』

『あいよ』

ジュゼッペは小箱を掴むと、休憩がてら屋敷の庭へ出る。庭の隣には小さな温室があって、どこかの南国の明るい色をした花が、季節はずれに咲き誇っている。50を過ぎたジュゼッペは、近くのベンチに小箱をそっと置くと、腰に手をあてて体を反らし、うんと伸びをする。スキャルケイルの秋の空を、細長い雲がいくつも流れていく。

 

小箱の内側には、丁寧に赤いビロードの布地が張られている。白の薄い包み紙を開くと、一組の絹の手袋が出てくる。その手袋は純白色で、手首を1周するように金色の糸で太く縁取りがされており、両手首の外側にそれぞれひとつずつ、小さな翡翠のボタンが縫いつけられている。

 

手袋を箱から出すと、その下には小さな封筒があり、裏返すとそこには『M.Reynolds』の署名がある。ジュゼッペは封筒の端をゆっくりと慎重にちぎっていき、手紙を取り出す。

 

親愛なるジュゼッペ!

 

大昔のことだから、僕のことはもう覚えていないかもしれないねーーー元気かい?

君のお気に召すか、わからないけれど、良かったら使ってほしい。

これからの季節、手の古傷が痛まないよう、祈ってるよ。

 

マーティンより

 

あの方は、私の手のこと、気づいていたんだーーー。ジュゼッペは驚いて、すぐさま自分の手袋を外し、レイノルズ教授から贈られたその手袋に手を通す。右、左、それぞれ拳を繰り返しにぎにぎさせ、馴染ませる。

 

翡翠のボタンをよく見ようとして、右手を空にかざす。ゆっくりと手を広げると、小指に温もりとわずかな重みを感じる。手袋の指先の部分が、いつもなら垂れ下がっているはずなのに、今は形を保って伸びている。

 

ジュゼッペは手袋の上から小指に触れる。自分の感覚がおかしくなったのかと思い、もう一度触る。どうにも確信が持てず、手袋を外す。

 

傷ひとつなく、すらりと伸びた指先と爪に、ジュゼッペは言葉を失う。慌てて手紙を見返すが、そこには住所は記されていない。震える手で手紙を折りたたみ、封筒とともに小箱に戻すと、彼はその小箱を胸に握りしめて急いで屋敷へと駆け戻る。