『はい次の人。名前は?』
『Martin Fran Reynolds』
『生年月日は?』
『教えない』
『ここは入国審査場ですよ、ムシュー』
『1854年6月16日』
『うちのかみさんと同じ日付じゃんか。で、黒馬車に乗った理由は?』
『落馬した』
『ずいぶんと馬とご縁があるようで。疾風怒涛の馬こそ、まさに実存の象徴!』
『そこまでのやる気はないんだけどねえ』
『落馬した日付は覚えてる?未記入だけど。今日の日付でオッケー?』
『イエス、サー』
『オッケー。なら、280500を交付番号にしとくね。なあマリア、今日って1900年5月28日で合ってるよな?え?金曜日?終わったら飲みに行くって?んなら俺も……よし、じゃ、…500…っと』
『ひとつ、聞いていいかな』
『んー?何だい』
『ここから市内へ向かうには、どの公共交通機関を使うのがベスト?』
『ああ!ご心配なさらんな。知らなかったかい?ぜーんぶ手配済みだよ、送迎車も、住まいも、火災保険もベッドカバーも何もかも。手ぶらオッケー、お気遣いなしでオッケー』
『ずいぶんと気楽な所なんだねここは』
『そりゃまあね。苦労のあとは、楽しく生きなきゃ』
『あなたもあなたのかみさんも苦労なさったわけだ』
『馬鹿にすると審査通らないよ』
『失礼』
『…よし、これで準備万端、と。最後にハンコ、ハンコ。はいドン、ドン、ドーン。おめでとうございます、これで無事、審査終了。Enter!』
『お手数おかけしたね、ありがとう。ところで、送迎車はどこに』
『D6ゲートだよ。ほら、あそこに標識が出てるだろう?あの通路をずーっと歩いて行くと、5分程度で審査場の外に出る。送迎車のターミナルは目の前にあるから、心配ない。来た車、どれでもいいから、乗っちまいな。はい、次の人!』