tête-à-tête 10

『あいにくのところ黒砂糖5kgの袋売りのみなんです、』

ストランドa通りに立つ小さな食料品店の女性店主は、申し訳なさそうにマーティンに答える。この店はどこか一風変わっていて、壁にはフクロウの剥製やらドライフラワーやらが飾られており、会計用のカウンターにはラベンダー色の砂が入った小さな砂時計と水晶玉が置かれていた。

『蜂蜜漬けのたぐいなら、何種類かあるんですが…』

赤い縁のメガネをかけ、長い髪を1本の太い三つ編みでまとめた20代前半とおぼしきその女性は、その落ち着いた外見には不釣り合いな甲高いアヒル声で話を続ける。マーティンは内心、笑いをこらえるのに必死である。

『うーん、蜂蜜漬けかあ。いや、やっぱり、今回はいいです。僕は徹頭徹尾、白砂糖派だから、黒砂糖5kgというのも辛いし』

女性は眉毛をへの字にして謝罪をする。そのへの字具合からすると、どう考えても悪い人には見えない。女性は謝罪の言葉を続けた。

『……本当に申し訳ないです。その代わり、と言ってはなんですが、お客さまは占いに興味はおありですか』

『占い?』

『はい。実は私、このお店を構える傍ら、外では占い師見習いとして勉強させてもらっておりまして』

三つ編み姿の女性は少し恥ずかしそうにもじもじと答える。

『もしよろしければ、なのですが、お客様の手相を読ませていただいても構いませんでしょうか。もちろん、無料です』

マーティンはこれは何となく面白そうだと思い、遊び半分で申し出に快諾する。

『無料なら喜んで実験台に』

マーティンは笑顔で右手を差し出した。

『ありがとうございます。……それではお客さまにお伺いいたします、いま現在、お客さまが叶えたいことは何かおありですか?』

女性店主はマーティンのふっくらとした手のひらを伸ばすと、懐からルーペを取り出し、慎重に線を見ていく。マーティンは数秒考えたのち、女性の質問に答える。

『そうだなあ。うん、会いたい人がいます。会って話がしたい人』

『その方は、男性?女性?』

『男性ですね』

『……はい、なるほど、……はい、わかりました』

店主は静かにルーペを懐に戻すと、胸の前で両手を合わせ、マーティンに向かって静かにお辞儀をする。

『お客さまはごく近いうちに、その方とお会いになると思いますーーー正確には、会う、と言うよりも、すれ違うところから始まるのだろうと』

『?それは、何かしらの接点はあるということ?』

『おっしゃるとおりです。そしてその後、直接お会いになる機会がやってくるかと思います』

『どんな場面でだろうね』

マーティンは両腕を組み、思わず身を乗り出して訊ねる。女性店主は静かに微笑んで答える。

『どのような場面・状況にいたしましても、お客さまにお勧めしたいことが、1点ございます』

『?それは?』

女性は会計カウンターの小さな砂時計をつまむと、天地をひっくり返して置き直し、ガラス瓶のなかのラベンダー色の砂がサラサラと落ちていくのを静かに見守る。そしてマーティンに向き直ると、にこやかに答えた。

『その方とお話しになるときには、紅茶をご用意されると良いと思います。そして、お客さまご自身の紅茶にはレモンを沢山、沢山絞って、紅茶がまぶしいオレンジ色になるまで、果汁を絞り入れてください。その紅茶は、きっとお客さまのお役に立つと思いますよ』