tête-à-tête 14

『学者になるだなんて、妖魔さんすごいじゃない』

『ううん。そんなに大したことじゃ』

マーティンとレイチェルは屋台で買った揚げ芋をつまみながら、スキャルケイル市内をぶらつく。1876年、春。マーティンは親指と人差し指についた塩を舐め、半ば自嘲気味に言葉を続けた。

『他にやることがないっていうか……その、いいなとは思うけど、自分には向いてなさそうだなってことのほうが多いっていうか』

『そんなこと、ないでしょうに。妖魔さんって、欲とか、あんまりない人?でも学者になるには他人を抜いてやるっていう野望もないと、大変じゃない?』

『うーん。僕の家族……親戚含めて、学者とか、作家が多いんだよね。だからその、お前もそういう道に進むもんだと、期待されてしまってる部分があって。僕自身にはそんな才能も自信もあるとは思えないんだけど』

『随分、控えめなのね。控えめっていうか、そんなに卑下しなくてもいいのに』

『僕は人からそんなに褒められたことがないから、ちょっとよく、わからない』

マーティンは今まで見せたことのないような気弱な表情で答える。レイチェルは立ち止まると、マーティンの顔をまじまじと見た。

『ヘンなの。私があなただったら、控えめに言っても、【そうなんです、ボクはそういう家系の出身だから、恐らくは何かしらの才能があるはずなんです、えっへん】って答えちゃう』

レイチェルはそう言うと、笑顔でマーティンの左頬に触れ、唇にそっとキスをする。マーティンは突然のことに驚いて、目をぱちくりさせる。レイチェルは笑って言葉を続けた。

『じゃあ、私といるときは、褒め殺し合いしましょう。私から見るとね、妖魔さん、あなたは背が高くて、とてもハンサムで、頭も良くて、面白くって、なんだかよくわからないけど一緒にいると落ち着く人』

マーティンは顔を赤らめ、返す言葉を探そうと必死に頭を働かせる。

『えーっと、それで僕は、レイチェルさんはとても、……とても綺麗で、自分に自信があって、それから声楽科の人なのに話すときは声がどことなくアヒルみたいで……あっ』

マーティンは思わず口に手を当てる。レイチェルはじろりとマーティンを睨みつけて笑う。

『そうなの。アヒルなの。よくご存じで。だから、アヒルのくちばしでつままれると、まあこんな感じかしらね』

そう言ってレイチェルはうんと背伸びをし、両腕でマーティンの首を抱いて再びキスをする。マーティンの手から揚げ芋の袋がぽとりと落ち、芋のかけらが数個、石畳の歩道に転がっていった。