tête-à-tête 15

1876年春、ビレホウル王国の首都スキャルケイルの中心部にある、王国中央刑務所の前。赤茶けた巻き髪の青年が、白い布の袋を片手にそわそわと誰かを待っていた。腕時計を見ると、既に待ち合わせの時刻、午前11時30分を回っている。青年は文字通り首を長くしたり、爪先立ちをしてみたりして、待ち合わせの約束相手が出てくるのを今か今かと待つ。

11時37分。刑務所の中央門が開くと、痩せ型で黒髪の青年が警備員の付き添いのもと現れる。巻き髪の青年は嬉々とした表情で黒髪の青年のもとに駆け寄った。

『ようシリル!』

黒髪の青年はズボンの両ポケットに手を突っ込み、肩で風を切るようにして巻き髪の青年に歩み寄る。青年は顎をぷいと上げて答えた。

『待たせたなマーカス』

ふたりは兄弟のように肩を並べて歩き出す。シリルはズボンのポケットから紙箱を取り出し、煙草を1本つまむと、マーカスに火をくれるよう目と手で合図する。マーカスはマッチをすり、火を着ける。

『その煙草、もしかしてムショの労働で手に入れた報酬?』

好奇心旺盛にたずねるマーカスとは対照的に、シリルは醒めた表情で淡々と答える。

『ああ。娑婆で手にする煙草に比べると、格段にクッソまずいがな。ないよりはマシだ』

シリルはツンと顔を上げ、曇り空に向かって煙を吐いた。小鳥のさえずりが春の澄み切った冷たい空気のなかに響き渡る。煙草をくわえ直すと、シリルは思い出したかのようにマーカスにたずねる。

『ところでお前。持ってきてくれたか』

『もちろん、ほら』

マーカスは即答し、持ってきた白い布袋の口を開け、周囲に気づかれないよう、シリルに中身を覗かせる。その布袋にはサファイアがひとつ縫いつけられており、シリルは中身を確認すると小声でマーカスにたずねる。

『弾は入ってるか』

マーカスは笑顔で即答する。

『もちろん。それから、これ』

マーカスは袋の底のほうをまさぐって、赤いラインで縁取りされた金の小銃モチーフのブローチを取り出した。シリルはブローチを受け取ると、それをジャケットの左胸に留め、満足げにポンポンと自分の胸を叩いた。

『昼飯、どうする?』

マーカスはスキップせんとばかりに嬉々としてシリルにたずねる。シリルは伸びきった髪を掻き上げると、もう一度空に向かって煙草の煙を吐いて言った。

『鮭のステーキ、それから目玉焼きでも食わせろ。ネズミ色したムショの麦粥なんて、思い出すだけで気が滅入るわ』