tête-à-tête 16

(18世紀初頭、ヴィレホウリウ王国の首都スキャルケイルの中心部にある、国王の宮殿。4月のとある夜、国王の寝室にて、国王ハインリヒ1世と妃ベアトリーチェとの会話。)

 

国王ハインリヒ、台所から持ち込ませたワインをなみなみとグラスに注ぎ、一気に飲み干す。

『お互いにとっていいこと尽くめじゃないか、なあ、そう思わないか?ベアトリーチェ

ベアトリーチェは鏡台の前に腰掛け、長い髪を梳かす。夫の言葉をほとんど気にも留めない様子。

『うーん?何がですの?』

『若い学生や研究者を私らの息子・娘たちのために雇い、ここで家庭教師として働かせる。子どもたちに絶対王政について徹底的に知識と理想を叩き込ませ、後継ぎ教育を施す。自由思想は何があっても子どもらには吹き込ませない、【外の空気】は吸わせない。そこはがっちりガードせんとな。指示どおりに後継者育成に貢献した学生と研究者には、それ相応の報酬を毎月支給する。従わない者は全員、大学や研究機関から追放。ただし私らに服従している限りは、一生涯安泰だ。私どもにしても、彼らの手綱を引いて制御しておけば、のちのちの代に渡っても安泰に暮らしていけるだろう。そのためにはこのスキャルケイルにある学術機関すべてを、思想言論統制の象徴としてまとめ上げ、支配下に治めんとな』

ハインリヒは盆の上のもうひとつのグラスにワインを注ぎ、妃に勧める。妃は黙って首を横に振る。ハインリヒは肩をすくませ、注いだばかりのワインを自分で飲む。妃はあくびをして櫛を鏡台の上に放り、ベッドに入る。

『私にはどうでもいいことだわ、政治にはこれっぽっちも興味がなくってよ』

国王はグラスを盆に戻すと、ぽりぽりと頭を掻きながら妃のいるベッドへ向かい、枕元に腰掛ける。

『女というのはこうも無頓着だから困る。私の首が飛んだら、当然、お前の首も飛ぶことになるのだよ?国王たるもの、何が何でも、その座は長きに渡って死守せんと』

『首と聞いて思い出した』

『何だね、ベアトリーチェ

妃は一度入った羽毛布団から飛び出してハインリヒにたずねる。

『ねえあなた、あなたは私のこと、愛していらっしゃる?』

『もちろんだとも、かわいいお前』

『そしたら、お願いしたいことがあるの』

『何だね。お前の願いなら何でも叶えてやるぞ』

ベアトリーチェはハインリヒの柔らかな白髪を、まるで子どもの頭を撫でるようにして撫でつけた。

『私、孔雀の髪飾りが欲しいの。だから、庭にいる孔雀のなかで、いっちばん綺麗な羽根をした雄の孔雀を、まずは一羽、絞めてちょうだい。それから、真珠とダイヤモンドもちりばめて。お世継ぎや王座の話もよろしいですけど、このわたくしにももう少しお貢ぎなさったほうが賢明ですわよ、国王さま?』