tête-à-tête 19

1900年、ホワイト・ヘイヴン市内。マーティン・レイノルズは小さな一軒家の自宅の裏庭で、サツマイモの収穫をしている。市内のわりに緑の多い地域であることもあってか、ひばりの鳴く声が大空の遙かかなたから聞こえ、庭にしつらえた巣箱と餌台には、すずめが7、8羽止まっている。前の週などは2匹のキツネの親子が、隣の家との垣根をくぐってマーティン宅にやってきたほどである。

時刻は14時過ぎ。イモ掘りを済ませて1階の台所兼食堂へ戻ろうとしたちょうどそのとき、玄関ドアの呼び鈴が鳴る。マーティンは台所と食堂を抜け、油彩画が両壁に掛けられた細長い廊下を通ると、ダークブルーのドアを開ける。

『はいどちらさ……』

マーティンは目の前に立つその人の姿を見て驚いた。

『ニールセンさん!!』

『久しぶりだね、マーティン』

訪れたのはレイチェルの父親でありマーティンの義理の父でもあった、ヨハンネス・ニールセンだった。ニールセンは帽子を外すと、笑顔でマーティンに軽く会釈した。

『突然来てしまい、本当に申し訳ない。是非とも君にひと目会いたくてね、ついつい』

マーティンはすぐさまドアを大きく開け放って、喜んでヨハンネスを迎え入れる。杖をつきながら歩く義父の背中にそっと手を添えながら、音を出して義父を驚かせてしまわないよう、もう片方の手でドアを静かに閉めた。

『びっくりです。何はともあれ、まずはお茶でも。狭いですけど、どうぞ食堂へ』

『ありがとう。随分、慎ましやかなところに住んでるんだね。君のような地位の人には、もっと広いところがふさわしいんじゃないか?』

ニールセンは興味深げに壁の油彩画を1枚1枚見て回る。天井の照明器具から注ぐ暖色系の光のせいで、ニールセンは実際以上に血色良く見えた。マーティンは食堂のテーブルの椅子を引き、ニールセンを座らせる。

『独り身ですから、これくらいの広さで僕はじゅうぶんです。庭もあるし』

マーティンはニールセンの杖を食器棚に立て掛け、カップとソーサーをふた組用意し、湯を沸かす。ニールセンは裏庭の景色を眺めながらマーティンにたずねる。

『ひとりなのかい。こっちで親しくしている女性はいないのかい』

マーティンはぷぷっと笑ってニールセンのほうを振り返り、明るく答えた。

『娘さん以上の人は、もう見つかりません。だから興味ないんです』

『それでいいのかい』

『ええもちろん!』

『しかしあれは私が無理強いしたことで』

『僕はもう気にしてませんよ、お義父さん。来てくださって、嬉しい。それだけです』

マーティンは熱い紅茶をヨハンネスに出すと、自分の紅茶には山のように砂糖を入れる。ヨハンネスはその様子を眺めて言った。

『君の砂糖中毒ぶりは、ずっと覚えていたよ。何ひとつ変わっていないようで、安心した』

『昔のままです。そのまんま、この国に移住しちゃいました。…あっと、そうだ、こうして来ていただいたから、せっかくなのでちょっとお聞きしたいことがあるんです。よろしいですか』

『何だね?』

マーティンはテーブル上の1冊のノートをめくり、そこに書かれたある単語に万年筆で二重線を引くと、義父の顔を真っ直ぐと見た。

『お義父さんが以前お調べになった、僕の家系のことです。例のアヴァリエ派の末裔、新アヴァリエ派の者について、覚えている限りのことを教えていただけませんか?』