親愛なるお父さま
かつて、あなたはおっしゃいました。
私を憎みなさい、この国と私を憎みなさい、お前自身を守るために憎みなさいと。
その言葉に、私の心は裂かれました、薄い色紙にナイフを通すように、私の目の前で、裂かれました。
お父さま。
私の名前はジョンです。
私は『ジョン』です。
あなたと、あなたの妻である私の母とが、私のために決めた名前を、私は背中にも心にも貼りつけて、私という実体として生きて参りました。下手なりに、そうして参りました。
あなたは大学では、服従しておられました、従順な学者でありました、
けれども家族の家では、あなたはあなたがおっしゃるところの【若き小さな抵抗者】を招き入れ、彼らに赤いスカーフを与え、あなたご自身の夢を彼らに託さんとしておられました。
お父さま。あなたは僕にも夢を託したのでしょうか。
あの日僕はいつもどおり大学の講義から戻って、いつもどおり階段を昇って、いつもどおり自分の部屋へ行きました、
だのに、僕の画材は一式、いつもどおりにはそこにはなかった。
僕は階下へ行って、たまたま居間にいたあなたにたずねました、画材がすべて消えたのだけど、と。
するとあなたは私を台所隅のごみ置き場へ連れて行きました、そしてただひと言おっしゃいましたね、それならここにある、と。
絵筆も、イーゼルも、油壺も、僕のお気に入りだった画集も、キャンバスも絵の具までも、すべてごちゃごちゃに混ぜ合わされ、叩きつけられ、折られ、破かれ、切り裂かれて、そこにありました。あなたのおっしゃるように、ええ、確かにありました。
お父さま?
あなたは私にスカーフも小銃もくださいませんでした、それどころか私の幸せな小銃をお潰しになりました、
私にはわかりません、自分の実の父の意図することが、わからなくなりました、
あれは、愛だったのでしょうか?
あれが、愛なのでしょうか?
あなたはおっしゃいましたね、
【お前の未来のために、こうしてお前の心に憎しみを植えつけているのだよ】と。
憎しみは、成長しましたか。
それは、さなぎの時を乗り越えて、羽化しましたか。どこかへ飛んで行けたでしょうか?
そうだとしたら、なぜ私は、今ここにいるのでしょうか?
なぜ私は、こんなボロの寝間着姿で、カサカサの素足で、部屋の灰色の地面を行ったり来たりしているのでしょうか?なぜベッドの枕元にある時計は、いつまでたっても壊れたままで、銅でできた本体も錆びてゆくきりで、私が生きているのか何なのかをすら証明してはくれないのでしょうか?
お父さま。
私の名前はジョンです。
僕の名前を呼んでくださいませんか、僕はフランじゃないんだ、僕はあの人のようには、うまく立ち回れなかったんだ。それがあなたの目論見だったのだとしたら、射程範囲内のこととしてあなたひとりに帰すべき成功なのだとしたら、僕はあなたの玩具だったのですか。あなたは間違っていたのですか、それとも今でも正しいのですか、このようにして世から離されたわたくしめの姿こそが自由の象徴なのだと、わたくしめの頭をお撫でになるおつもりですか。
どうか、お答えください。
あなたのジョンより