tête-à-tête 23

シリルとリディアの自宅2階にある浴室。シリルは白い陶器のバスタブのなかで湯に浸かり、物憂げに煙草をふかしている。バスタブの縁にはリディアが腰掛けている。シリルはゆっくりと大きく煙草の煙を吐いてリディアに言った。

『そうだよな。ごめん。あのときはマーカスだったから、覚えてないよな』

リディアは首を横に振る。

『覚えてるときも、あるよ。たぶん、気にならなかっただけ』

ポチャンポチャンと、リディアはバスタブの湯をすくう。湯気の立ち込める部屋のなか、その音だけが静かに響く。窓際に立てかけた置き時計は深夜0時47分を指していた。

『その人の何が気がかりなの?見覚えのある人?』

『いや。見覚えはない…とは思うんだけどさ。苗字が同じだったし、俺と同じで髪の毛真っ黒だったからさ、なんとなく』

『まさか生き別れの双子でもいた?』

リディアは少し元気を取り戻してふざける。シリルは笑って、リディアに向かって指先でピッピッと水しぶきをかける。

『いねえよ双子なんて。なんとなく気になっただけだよ、なんとなくな』

そう言うとシリルは煙草をリディアに渡し、湯に潜る。数秒後、体を起こして顔を出すと、濡れそぼった髪の毛を後ろに撫でつけ、リディアから煙草を受け取った。リディアはためらいがちに言う。

『あのね、ちょっとお願いがあるんだけど』

『何』

『今日、一緒にシリルのベッドで寝てもいい?』

『何だそんなことかよ。いいよ、全然』

『それでね、絵本をね、読んでもらえる?』

『いいよ。何がいい?マフィア抗争のストーリーでもどうだ?路地裏の血みどろの闘いだぜ?』

リディアは笑ってシリルに湯を引っかけた。

 

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『……そして子ブタのメリルンは、人参畑へ行って隠れることにしました。お茶碗を割ってしまったことを、お母さんに知られてしまったからです。メリルンはどきどきして……』

リディアが寝付いたのを見ると、シリルは彼女の額に口づけて静かに絵本を閉じ、ベッドから降りる。そして洋服棚の最上段の棚に保管してある白の布袋から、小銃モチーフのブローチを取り出し、しばらくのあいだじっとブローチを眺める。煮え切らぬ表情で首を横に振ると、ブローチを袋に入れて棚の奥に押し込み、リディアの眠るベッドへと戻った。