再びホワイト・ヘイヴン市内の魚料理店。最悪、役所だーーーそう自分に言い聞かせながら、マーティン・レイノルズは店のドアを押す。呼び鈴が鳴ると、先日と同じウェイトレスがマーティンを迎え入れる。
『いらっしゃいま……あ、お客様、確か先日も』
『そう。この前来たものです』
『今日はご予約は入れていらっしゃいますか?』
ウェイトレスは会計カウンターの引き出しから、メニューを1枚取り出してたずねる。マーティンはきっぱり首を横に振る。
『いえ。今日はその、申し訳ないけど、食事しに来たわけじゃないんです』
『先日、店内に何かお忘れ物でも?』
『いえ、それでもなくて。ちょっとお伺いしたいことがあるんです』
『はあ……何でしょう』
マーティンは呼吸を整えて言った。
『この前僕がここに来たとき、僕の斜め向かいのテーブルにいた男性ふたりのことなんですが、ウェイトレスさん、ひょっとしたら覚えていらっしゃいますか?』
ウェイトレスはしばらくのあいだ大きな目を右に左にとぎょろつかせながら、その日の記憶をたぐり寄せようとする。彼女の反応が鈍いのを見て、マーティンは自分が見た限りのふたりの印象について、続けざまに語る。
『ひとりは黒髪で痩せ型、僕よりも背は低いんじゃないかと思う。オリーブ色のコートのようなものを、椅子の背に引っ掛けていました。それでもうひとりの男性は、えっと、赤っぽい、クセのある髪の毛で、ぱっと見女性と間違えるような顔の人。ふたりとも若くて、僕ともそんなに歳は離れてない気がする』
するとウェイトレスの顔色が変わった。
『……ああ!ええはい、思い出しました、確かにおふたり連れで、お客様の斜め向かいでお食事なさっていました。ですけど、そのおふたりがどうされたんですか?』
マーティンは喉元がキュッと締まるのを感じながら、思い切ってたずねる。
『あの。思い出せなかったり、あるいは僕に教えるのがダメだったらいいんですけど……、ふたりはその日、予約を入れての来店でしたか?』
ウェイトレスは再び両目をギョロギョロさせて記憶を呼び起こす。
『えーっと……別にダメではないんですけど、私自身の記憶が……』
『そのふたりだったら予約入れてたよ』
突然、そばにいたウェイターがふたりに割って入った。マーティンは咄嗟にウェイターに質問を投げかける。
『それであの、ふたりのうちどちらの名前で予約入れてたか、覚えてます?』
ウェイターは鼻唄混じりで事もなげに答えた。
『ああ。それだったら、レイノルズって名前。俺が接客したから、間違いない。黒い髪した男のほうが、俺にレイノルズって名乗ってきたよ。それがどうしたって?』