tête-à-tête 29

1900年12月。ホワイト・ヘイヴン市中心部の繁華街、シトルリアの喫茶店にマーティンがいる。およそ1年前、ホワイト・ヘイヴンに入国した直後に初めて来て以来、マーティンはこの店の常連となっていた。シトルリアではほとんどどの店も、クリスマスデコレーションが施され、買い物やディナーを楽しむ家族連れで賑わっていたが、この喫茶店は内装も外観もいつものまま、ひっそり静まり返っている。客も、マーティンの他に数人しかいなかった。

マーティンは大抵いつも座る窓際の席に着き、店の前を通り過ぎる人々をぼんやりと眺めながら、注文したコーヒーを待っている。そしていつもどおり、注文してわずか1~2分のうちに、店主がコーヒーを持ってきた。

『お待たせいたしました。どうぞ、ごゆっくり』

『ああー、ありがとう、』

マーティンはすかさず笑顔で答える。

『ここはいつも静かでいいね。クリスマスだからって派手な飾りつけもしてないし。居心地いいから今後もずっと通わせてもらおうかな』

すると店主は半分嬉しそうに、また半分申し訳なさそうに言った。

『ありがとうございます。ただ、この店なんですが、近いうち畳んだほうがいいかなと私自身は思っていまして』

『えっ、なんで?』

マーティンは驚いて顔を上げ、店主の顔を見る。店主は声のトーンを落として事の次第を話し始めた。

『非常に申し上げにくいことなんですが。この店の隣に、ブラック・マストという酒場があるのを、マーティンさんはご存じかと思います』

『真っ黒い壁の店だよね』

『はい』

『そのお店がどうかしたの?騒音とか、何か問題が?』

『騒音ではないんですが……、その、あちらの客層と言いますか、雰囲気がですね、ちょっと……。まあ繁華街ですから、仕方ないんですけどね……』

マーティンは怪訝な表情でたずねる。

『でも、シトルリアって、繁華街のわりには落ち着いてるよね。隣の店が特に問題だってこと?何か実際に影響出てるの?』

店主は遠慮がちに身をかがめると、マーティンに耳打ちするように小声で答えた。

『こういう言い方はあれなんですが、まあ、ごろつき集団とでも言ったらいいんでしょうか、実は以前にも深夜早朝に発砲事件を起こす者がいまして』

『発砲事件?ここってそんなに治安の悪い地区だったっけ?』

『いえ、ただあのお店がですね、運悪くその集団のたまり場になってしまっているようでして……若者が大半なんですが、噂によるとある政治グループか何かの分派らしいんです。それなりの歴史もあって、確かアヴァなんとかと言っていました』

店主の言葉に、マーティンは一瞬固まる。そしてすかさず問いただした。

『それってもしかして、新アヴァリエ派っていうグループのこと?』

店主は完全な確証は持てないものの、ゆっくりとうなずく。

『100%そうかは自信がありませんが、そんな感じの名前だったように思います。銃を常に持ち歩いているという噂は、よく耳にしますね……』