tête-à-tête 31

『不良になるどころか肺病の始まりになるから、何もそこまでやらんでも』

ホワイト・ヘイヴン市内にあるヨハンネス・ニールセンの自宅書斎。マーティンは自分の住む地区から歩いて10分もしないところにヨハンネスが住んでいるのを知って以来、折りを見ては元義理の父を訪ねることにしていた。薄茶色の煙草の煙に目をしばたかせながら、マーティンは答える。

『少しでも場に溶け込むにはこうでもしないと』

『まあ確かに、君に似つかわしい場所ではないからな、浮くには浮くだろう』

マーティンは咳込んで煙草を灰皿に置く。その目には涙が浮かんでいる。

『それと質問なんですが、つまみは何を注文したらいいですかね』

『つまみ?』

『ほら僕、お酒もほとんどやったことがないから』

『ああ、』

ヨハンネスはグラスに注いだブランデーをひとくち飲むと、当てずっぽうに答える。

『ポップコーンかひまわりの種でも頼んでおけばいいんじゃないか?どうせ暗がりだから誰も見とらんだろう』

『何か甘いのはないですかね』

『なんなら角砂糖を隠し持って行ったらどうだ?』

『その手がありましたね』

ヨハンネスは右腕をぐんと伸ばしてブランデーグラスを書斎机に置くと、ひとり掛けの灰色のソファの上で大きく伸びをする。マーティンはと言えば真向かいの同じく灰色のソファの上であぐらをかき、ソファのアームに乗せた灰皿のなかで煙草をいじくり回している。

『それよりもあれだ、女性の誘惑には気をつけることだな』

『え?僕、女性を引っかけるつもりは毛頭』

『君がそういうタイプでないことはわかってるさ。その逆だよ、逆』

『まっさかあ』

マーティンは大きな笑顔で反論する。ヨハンネスも笑って答える。

『君のようなスレてない男を食い物にする女性もいるだろうからな。運び屋として利用したがる連中もいるかもしれん』

『少しでも威圧感を与えるにはどうしたらいいですかね?』

ヨハンネスは大あくびをして、冗談めかしたアドバイスをする。

『まあ君のような純朴な印象の男には無理だろうな。せめてシャツのボタンを2つ3つ外しておくとか、香水を振りまいておくとか、哲学的思索を一時的に放棄して荒ぶってみることくらいだろうね』