tête-à-tête 33

ビレホウル王国の首都スキャルケイルの南部にある、学生が集うバー。午後の8時。リディア・ソーントンはカウンターで飲み物を買うと、カウンターのすぐ横にある立ち飲み席に移動する。

その日は土曜日で、7、8人の若い女の子のグループがダーツボードのそばで大声で話していた。そのすぐ横にはビリヤード台が1台あって、恐らくは10代後半、女の子たちとほぼ同年齢であろう5~6人の少年がゲームをしたり雑談をしている。

リディアは最初ちらちらと女の子たちのグループを観察していたが、結局仲間に加わることなくひとりで立っている。注文したソーダをちびちびとやりながら、時折ハンカチで目を拭う。すると少年グループのひとりが近づいてきて、リディアに声をかけた。

『大丈夫?』

リディアは反射的に笑顔を返す。少年はオリーブ色のミリタリーコートのポケットに両手を突っ込んで、リディアの隣に並ぶ。

『見慣れない顔だけど。ここは初めて?』

『ううん、今回で確か4回め』

『そうなんだ。どこの学校?』

リディアは小さく折りたたんだ身分証明書を財布から取り出すと、開いて学校名を見せる。少年は意外な顔をした。

『イステル第2って。お嬢様学校じゃん』

『まあね。ここから歩いて15分くらいだから、週末ときどき遊びに来てる』

『寄宿制だっけ?』

『うん』

『なんで君みたいな子がこんなとこに』

『イステルの子は入店できないって決まりでもあるの?』

リディアは笑った。

『いや、そういうわけじゃないけど』

『まあ、未来のお婿さん探しってとこかな。あなたは?学校はどこ?』

そうたずねられると少年はややバツが悪そうに、友人から借りた身分証明書をコートの内側から出して小声で言った。

『証明書は人から借りてる。ほんとは孤児院出身で、今もまだ孤児院で暮らしてる』

『孤児院だと何かまずいの?』

『いや、別に。ただ、証明書と言えるものがないもんだから』

『シリル、次はダーツやろうぜ』

ビリヤード台にもたれかかっていた金髪の少年が声をかけてきた。リディアはミリタリーコートの少年の名前をすぐさま記憶にとどめた。少年は金髪の男の子に向かって手を挙げると、リディアのほうに再び向いて申し訳なさげに言う。

『悪い。呼ばれちまった。またあとで話せたら』

リディアは笑顔で首を横に振る。シリルは少しだけ落ち着きなくリディアにたずねた。

『あのさ、今日はひとりで帰れる?もし何だったら送っていくけど。門限とかある?』

『おい、シリル!』

邪魔をしたいのか、金髪の少年が再び大きな声でシリルを呼ぶ。リディアは少年のほうを見て微笑むと、ソーダの残りを飲み干して言った。

『大丈夫。このお店の前の通り、馬車つかまえやすいでしょ。あと数十分もしたら帰るけど、ご心配なく』

 

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午後9時過ぎ。リディアは馬車には乗らず、歩いて宿舎に帰る。宿舎の門番の男性はリディアが近づいてくるのを確認すると、おどおどそわそわした様子で周囲を見回した。黒い鉄の門の前まで来ると、リディアは門番の目の前に立ち、彼が門を開けるのを待つ。男性は震える手で落ち着きなく錠前に鍵を差し込み、数たび失敗してからようやく開門した。

リディアは財布から紙幣を1枚取り出すと、それを丁寧に四つ折りにし、慣れた手つきで門番の制服の胸ポケットに滑り込ませる。門番の男性は後じさりし、怖じ気づいた表情でリディアに言った。

『ね、リディアちゃん。無断外出とか外泊のことだったら、誰にも言わないから。いい加減こういうの、やめようよ、ね?おじさんにだって家庭があるんだし、リディアちゃんだってこんなことしてるのがバレたら、まずいでしょう?だからこういうのは今日で終わりに……』

リディアは男性の首に巻かれたストールを引っつかむと、そのまま彼を守衛所の裏手の物陰に引きずり込んだ。