tête-à-tête 34

ビレホウル王国、首都スキャルケイル。12月14日。粉雪混じりの灰色の空の下、画家のジョン・レイノルズは街じゅうの小さな教会を1件1件訪れては、仕事はないかとたずねて回っている。

『あー、それなら悪いけど、うちは間に合っているので』

その日最後に回った聖母教会の事務員は、そっけない口調でジョンの申し出を断った。

ジョンはかじかむ手をさすりながら食い下がる。

『そこを何とか。クリスマスなのに家族にまともな食事も贈り物もできそうにないのです、』

50代の事務員の男性はまるで左から右へと聞き流すかのように、何の反応もなくモミの木に小さな鈴をつける作業をしている。ジョンは臆せず続けた。

『今日はもう、9件回りました。こちらが10件めです。どんな小さな絵でもいいので、描かせてもらえせんか』

すると事務員は大きな溜め息をつき、ジョンのほうを向いてきっぱりと言った。

『あのねえ君。君って確か、進歩派の画家だったよね?』

ジョンは他の教会でも聞かれたこの質問に、内心怒りと苛立ちを覚えながら答える。

『ええ、そうですが』

事務員は半ば呆れ顔で言葉を続けた。

『スキャルケイルは決して大きな街じゃないからねえ。君のような危険な画家や作家にまつわる噂なんて、あっという間に広まってしまうんだから。良くそれでこんな場所に顔が出せるってものだよ、申し訳ないけど』

ジョンは抗弁しようとする。 

『僕も僕の仲間も決してそんな危険な思想は……』

『君たちはそう思ってるだろうけど。君たちと関わって害を被るのは、声をかけられたうちらなんだよ。それくらい、わかるよね?』

『害だなんて僕らはそんな』

『もう少し、他人の立場になって考えてみたらどうだい。君らのせいで私たちのような小さな礼拝所にまで閉鎖命令が下ったら、誰が責任取ってくれるんだい。君たちにそれができるとでも?』

ジョンは押し黙った。事務員は最後にもう一度、わざとらしく大きな溜め息をついて、ジョンに念押しした。

『わかったならもう帰ってくれ。何度も言うけど迷惑してるんだ。パンが欲しいなら第7区の救貧院へでも行って支給してもらえばいいじゃないか』

 

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ジョンは自宅のドアを開けると、腕と肩についた雪を払い、ドア横のハンガーにコートとマフラーを掛け、薄暗い居間に入る。

『…お帰りなさい』

妻のシボーンは怯えた小さな声で言う。彼女の左頬は赤く腫れ上がり、下唇も切れていた。彼女の横ではまだ2歳かそこらにしかならない子どもが、じゅうたんの上で積み木をいじって遊んでいる。シボーンは夫とは目を合わせぬよう警戒しながら、子どもの隣でへたり込むように座っている。

小さな男の子が積み木の山に埋もれていた鈴を掴んで放り投げたとき、ジョンはその音にカッとなり、テーブルの上にあった満杯の水差しを床に投げつけた。水差しは割れなかったものの、シボーンは顔と首に水しぶきを受けてびしょ濡れになっていた。彼女は黙って濡れた髪を搔き上げ、じゅうたんに転がった水差しを起こした。ジョンは再びカッとなって水差しを部屋の隅へと放り投げる。幼い男の子は驚いて泣きわめき出した。

『うるせえんだよ!!お前、このクソガキどうにかしろよ!』

ジョンはシボーンの濡れた髪を掴むと、彼女を引きずり回して背中を蹴飛ばし、床に散らばった積み木を次々と壁に投げつけると、コートを掴み大きな音を立てて外へ出ていった。