tête-à-tête 35

『それで家の柱に頭ぶつけたんか。お前もついてないと言うか、まあ、アホだな』

ホワイト・ヘイヴン市内、エスター通りにあるストラストヴィーチェ書店。店主のストラストヴィーチェ・ジュニアは脚立に乗り、はたきを振り回して本棚の掃除をしている。そして、いつもならば彼がでっぷりと腰を下ろして座っているはずの店番用デスクに、マーティン・レイノルズがいる。マーティンはデスクの上に置いてあったY字型パチンコをためつすがめつしている。

『だって、あの痛みじゃ歩けませんってば。親父さんは知らないから』

『と言うかお前、コーヒー飲み過ぎなんじゃないのか?偏頭痛を言い訳にガブ飲みしてきたから、中毒起こしてんだよ』

『親父さんだってプーゴ茶をがぶ飲みしてるじゃないですか。僕、知ってるんだから。あれってダイエット茶なんでしょう?』

『俺はいいんだよ俺は。実際、デブなんだしよ』

店の奥でオレンジを食べてくつろいでいたストラストヴィーチェ・シニアは、その言葉に反応を示す。

『太りすぎは困るのうー、体に毒だわい』

『親父さんとお父さんって全っ然似てないよね、体型が』

マーティンは書き物をしながら言う。Y字型パチンコの横に置かれたジュニア親父の眼鏡を手に取り、面白半分でかけてみる。すると度が合わなすぎて、ついクラクラしてきた。

『まあ俺はお袋に似たんだろ。いかんともしがたいことだ。おい、俺の眼鏡で遊ぶなよ』

マーティンはおとなしく眼鏡を外してデスクに置く。そして再びパチンコをいじくり始める。

『……ま、いずれにしてもだな、お前はそういう場所へ赴くような人種じゃない。万が一おかしなことに巻き込まれたら、義理のお父さんだって悲しむじゃないか』

『みんなそう言うよね。お前が行くようなとこじゃないって。僕ってそんなに退屈な人間に見えます?』

『退屈とか性格上の話じゃない、身分の問題だよ。お前は元学者なんだから』

ストラストヴィーチェ・ジュニアは脚立から降りる。マーティンは鞄からブドウ飴の包みを取り出し、鮮やかな紫色をした飴をひと粒つまむと、それをY字型パチンコでジュニアの腰めがけて打つ。飴はパシンと音を立ててジュニア親父の腰に命中し、床に転がり落ちた。

『おいこら妖魔っ!』

マーティンはパチンコをデスクに放ると、何事もなかったかのようにそそくさと書き物に戻る。

『お前はこの国に来てからというもの、若返るどころか子どもに逆戻りだな。ところでお前、さっきから何書いてんだ?』

ストラストヴィーチェ・ジュニアはデスクに近づき、マーティンの手元を覗き込もうとする。マーティンはサッと紙を裏返して、紙の上に万年筆を置いた。

『さあ、いったい何でしょうね。出来上がったら、お見せいたします』