tête-à-tête 37

ビレホウル王国の首都・スキャルケイル。市内第7区の救貧院の入口にジョン・レイノルズが立っている。

ーなあジョン、自分さえ良ければもうそれでいいではないか。表立って楯突くことさえしなければ、稼ぎも身分も保証されるんだ。そして資金なり情報なり武器なりを供給して、自分は後継者育成に徹すればいい。

『悪いんだけど、今日の配給はもう終了してしまったんだよね』

ーそうすれば自分の手を汚さずに済む。資金ルートがばれる恐れがあるなら、口止め料でも払っておけばいい。王国からの現物支給というのはそのためにあるんだ。どのみち研究者のなかでは国王派は2割、自治推進派は8割だ。内部分裂の確率は低い。

『それと、まず最初に役所へ行って、受給申請手続きを済ませてからでないと、私らとしても何もしてあげられないんだ』

ー正直に言おう。私たち中堅レベル以上の研究者は、私たち自身を含め民衆に勝算があるだなどとは初めから思っていない。端から信じちゃいなかったのだよ。2割8割の対立だって、実は全体を盛り上げる為のお膳立てみたいなもので、本気なんかじゃない。

『うん、だからね、そのお気持ちはわかるんだけども、あなたはまず、役所へ行ってくれる?』

ー馬鹿馬鹿しい。『ある程度』のことを済ませたなら、そこから先はより若い世代や鬱憤の溜まった者を金で遊ばせて、彼らに罪を被せておけばいいじゃないか。それで自分たちは安定した生活のもと、自由思想を支持する論文でも執筆し続ければいい。そうすればいつの日か、私たちの信念が海外へ輸出されるときが来て、再び紛争が起きたときには諸外国からの応援も期待できるかもしれない。そもそも今の代ですべてが解決するだろうとは、誰も思っていない。ならば少なくとも自分たちが生きているあいだだけは、なにも自分から傷を被りに行く必要はないじゃないか。何世代かのちに誰かが成し遂げてくれれば、それでいい。うまく現状に適応して、ゲームに乗って、そつなく生きれば。そうは思わんか?理に適っているだろう?これ以上くたびれ損をして、何になる?

『いや、だから、今日のところはね……』

『……何、あの人?物乞い?やだあ』

『哀れだな。どうせ負け組だろ……痛っ!おい何すんだよこの乞食野郎っ!』

『ちょっとあなた何してるの!』

『やだちょっと誰か来て!!誰かっ』

『今すぐ事務所の者を呼びますので』

『誰か!誰かこの男取り押さえてっ!』

『おい何だあれ、何、刃物振り回してんだ?』

『誰か早く!うちの人が、うちの』

『おい行くぞ、皆で取り押さえよう、おいお前何やってんだ!』

『僕はアヴァリエを支持しはしたけれどそんな加担はしていない、ゲームのつもりでもなかった、僕は僕だ、僕なんだ』

『何言ってんだこいつ?よしそうだ羽交い締めにしてやれ、怪我人のほうは大丈夫か?』

ーフランを見なさい、フランを。お前と違って父さんの言うとおりにしているじゃないか。嘘をつくんだ嘘を。自分を生きようなどと決心するな。私たちはただの歴史の通りすがりじゃないか。何食わぬ顔で、黙って楽しく生きていればいいのだよ。

『僕は選んだんだ、僕は進歩派の画家になってアヴァリエを支持したんだ、あなたとは違う、僕はあなたの気晴らしや気まぐれのためのおもちゃなんかじゃない』

『誰に言ってるんだこいつ?精神病か?』

ー本音と建て前、表と裏。みんな上手に使い分けているものなんだよ。誰も本気でなんか、生きてはいない。ジョン、いい加減お前も私どもと一緒にうまくやろうじゃないか…………

『今、救貧院の事務代表の者が来ますので。とりあえず病院、外科と精神科両方。歩いてすぐのところにありますから。それまでは皆さんで取り押さえご協力願います!』