tête-à-tête 38

ビレホウル王国、スキャルケイル市の南に位置するイステル第2女子高等学校。学生宿舎A棟、2階。土曜の夕方。シルクのシャツにネクタイ、ブレザー、ズボン姿の生徒が自分の部屋から出てきて、廊下を歩いていく。周囲にいた生徒たちは皆、彼女のほうを振り返る。なかには好奇心から彼女を指差し、小声で噂話を始める子たちもいる。

『何あれ?あの子ちょっと変わってない?』

『あれ、男物のスーツだよね?なんであんなの着てるの?どっかの高校の制服?』

『仮装パーティーへでも行くのかね?』

数人で固まって話していた女の子たちは一斉に吹き出して、ブレザー姿の生徒に繰り返しチラチラと探りを入れる。

『ね、誰か話しかけてみる?今日はどちらへお出かけですか?って』

『やだよお。あの子、いっつも独りじゃない。クラスにも他学年にも友達いないみたいだし』

『なんか、ちょっと不気味だよね。喋ってるとこ、あたし見たことない』

『あたしもー。ほっとこうよ。中途半端に関わり持ってヘンなことに巻き込まれたら怖いしさあ』

『そだね。関わらないのがいちばん』

 

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同じ日、スキャルケイル市南部の学生バー。午後7時過ぎ。シリルは数週間前にここで知り合ったイステル第2の女の子のことが気になって以来、土曜の夜には必ず顔を出していた。この日も強制されている孤児院の奉仕活動を済ませると、その足で急いでバーに向かった。

店のドアを開けると、高校生と大学生と見られる男女のグループが、ビリヤード台の近くで大きな声を出して盛り上がっているのがまず目に飛び込んできた。シリルはこんなやかましい集団のなかにはあの子は加わらないだろうと思いつつも、とりあえず皆に挨拶することにした。

近づくと、グループのなかのひとりに思わず目が行った。彼女にそっくりの子だった。違うのは男の服装をしているということと、この前の印象とはうって変わってとても快活でお喋りな子に見えたこと。そして、この時間から既に酔っているのか、男子大学生のひとりがその子の肩に腕を回してベッタリとくっついているのを見るなり、シリルは彼に近づいていってその腕を降ろさせた。

『お前、男に興味あったのか。しかもこんな女みたいな子にか』

シリルは冗談めかして男子学生に言う。すると横にいた高校生くらいの女の子がからかうようにシリルに言った。

『えーっ、なになに、シリルってば妬いてるのお?シリルも実はゲイだったとか?どっちにしても、あたしたちのマーカスに手ぇ出さないでよぉ』

『マーカスだって?』

シリルは目が点になった。

『マーカスって、誰のことだよ』

『俺だよ俺、』

ブレザー姿の子がシリルに言った。シリルはくだらない奉仕活動のせいで自分のアタマがおかしくなったのかと思い、女の子のようなその『男子』をまじまじと見る。そして、思い切ってたずねてみた。

『この前、確か…3週間くらい前にも来てたよな、君』

するとブレザー姿の子はきょとんとした表情で答えた。

『3週間前?いやあ?来てないけど?』

『ほら、立ち飲み席のとこで。そのとき俺と少しだけ話をして。イステル第2の子だって』

『イステル第2ぃ?!』

男の子はすっとんきょうな声で聞き返すと、口を大きく開けて笑った。

『人違いじゃないの?それ、女子高だろ?まあいい、俺はマーカスっていうんだけど、あんたは?』

シリルは信じがたいといった様子で答えたー俺は疲れて夢でも見てるのか?

『シリル。シリル・ジョン・レイノルズだけど』

酔っ払ってでもいるのか、マーカスは笑顔でシリルの目の前に立つと、シリルのコートの襟を掴んで彼の口もとすれすれのところにキスをした。それを見ていたグループの子たちは一斉に口笛を吹いて足を踏み鳴らし、大盛り上がりになった。