tête-à-tête 39

ホワイト・ヘイヴン、シトルリア。酒場『ブラック・マスト』の前をマーティンが腕を組みながら行きつ戻りつしている。時折天を仰いでは店の前でうろちょろし続ける彼の姿を見て、店内で清掃作業をしていたバーテンダーが出てきた。

『そこのお兄さん、この店になんか用でも?』

声をかけられマーティンはくるっと後ろを振り返る。そして久方ぶりに被ってきた黒の山高帽を脱ぐと、若いバーテンダーに言った。

『ええ、まあ、ちょっと』

『店ならまだ開かないよ。あと45分待って』

『あ、今日は中に入るつもりはないんです、』

マーティンは前回初めて来たときの手痛い騒音洗礼と偏頭痛発作に懲りて、店のなかにはもう入るまいと決めていた。けれどもバーテンダーが不審そうな顔をしているので、こうしてたむろしている理由については説明しなければと思った。

『あの。ここによく来てるある男性のことで、ちょっとお伺いしたいことがあるんですけども』

『何だい?』

『えっと。シリルっていう人のことなんですけども』

『シリルがどうかしたって?』

『良かった、ご存じですか』

『そりゃあまあ、奴を知らないってことはないよ』

バーテンダーはまるで、シリルのことはこの店の誰もが知っていて当然とでもいったふうに答える。マーティンはシリルの顔の広さに少し羨ましさを覚えた。

『そうですか。良かった。で、彼なんですが、ここには決まった曜日に来ることが多いんでしょうか、それとも不定期にふらっと?』

『まあ土曜の夜かね、大抵は。そんなこと聞いてどうすんの?あんた知り合い?』

『ええ、』

マーティンは一瞬ためらったが、嘘でごまかすよりはマシかもしれないと思い、正直に答えた。

『僕と彼は従兄弟なんです。ただこれまで出会ったことは一度もなくて、僕がこの前初めて来店したときが文字通り人生初顔合わせでした』

バーテンダーは驚いて、マーティンの顔を食い入るようにして見る。

『君とアイツが?そりゃびっくりだね。とても血縁関係ってなふうには見えないけど。で?それで?要はいつ来ればいちばん奴に会いやすいかってこと?』  

『そういうことです』

マーティンは即答した。バーテンダーの男性は少し考えながら話を続ける。

『実はねえ、ここんとこ来てないんよ、あいつ。ガールフレンドの介護で時間取られてるみたいでさ』

『介護?』

マーティンは思いもよらぬ言葉につい聞き返す。

『その方、お体の具合悪いんですか?確か僕も一度店内で拝見したような』

『いや。体のほうじゃなくて。彼女ちょっと、気分に波があるんだよね。詳しいことは俺らにはわからないけど、日常生活に支障が出るってことがまあちょくちょくあるみたいで。それであいつがひとりで面倒看てるらしいんよ』

バーテンダーの男性はやや気の毒そうな面持ちで説明した。

『なんなら次にシリルに会ったときに、今日君が来たってことを伝えておくけど?』

マーティンは、自分とシリルとの関係を素直に伝えて良かったとは思いつつも、シリルの私的なことを図らずも聞き出してしまったことに、ためらいを感じた。それでも、念の為、ここに来たことだけは伝えてもらおうと決めた。

『従兄弟だってことは、言わなくていいです。マーティンという者が来たとだけ、伝えてもらえますか?』