tête-à-tête 42

『えーっと…、あ、ここがポプラ通りか。で、38のa……。あ。あった』

マーティンはシリルとリディアの自宅前にいた。『ブラック・マスト』のバーテンダーが気を利かせて、ふたりの家の住所を教えてくれたからだった。マーティンは最初、こちらの勝手な希望でふたりのプライバシーに関わる情報を得るのはどうかと思い、住所の書かれた紙切れを受け取るのを丁重に断った。けれどもバーテンダーが、このことで後日何か問題があったなら自分が責任を取ると言ってくれたので、それを信じて受け取ることにした。

ホワイト・ヘイヴン第6区、ポプラ通り38a。確かにその家はあった。赤銅色の瓦屋根に、玄関ドアはマーティンの家のドアとほぼ同じダークブルーだった。もともとはリディアひとりが住むための家だったので、とりたてて広そうには見えない。それでもふたりが住むにはじゅうぶんであろう、こぢんまりとしながらも居心地の良さそうな印象の建物だった。

マーティンは家の目の前に立つと、数歩下がって改めて全体を眺めた。そしていろいろと考えた。今度またシリルに会うには、やはり『ブラック・マスト』へ行くのがベストだろうか。向こうはこっちのことをどう思ってるんだろう。今自分がこうしているように、あっちもこちらのことを知ろうとして、何か情報を得てきただろうか。再会したら、何を話そう。何について、どう会話を切り出そう。仕事とか趣味とか、まずはそういう軽い話題から始められるだろうか。彼は僕について、どう思ってるんだろう。アヴァリエのことそれ自体よりも、僕はシリル自身のことを知りたい。それから、彼女さんとのことも。

シリルが恋人と同居していることを改めて考えたら、マーティンは自分自身もかつてレイチェルと暮らしていたことを思い出し、何となく心が乾いたような、寂しいようなつまらないような、そんな感じを覚えた。今、こうして立っている自分の隣に、彼女がいてくれたらいいのに。

ほんのしばらくのあいだ、マーティンはぼんやりとレイチェルとの思い出に浸っていたけれど、途中で我に返って再びシリルたちの家を見上げた。もう少し待ってから、またあの酒場へ行こう。その頃には彼女さんも、快復しているかもしれないし。マーティンはそう自分に言い聞かせながら、手紙も何も残さず、静かにその場を立ち去ることにした。