tête-à-tête 43

『えっ。何それ、どういうこと?』

『ごめんね。隠すつもりは、じゃなくて、隠すつもりで、だったの』

1900年12月24日、ビレホウル王国の首都スキャルケイル。マーティンの元妻・レイチェルが、彼との子であるマリオンを訪ね、初めてマーティンとのことを打ち明ける。

『だって。ちょっとそれ。あり得ないでしょう。だってさ、……博士がさ、いや、僕がさ、博士の息子だって、それちょっと、え?』

マリオンは激しく動揺し、髪の毛を掻きむしりながら部屋のなかを行ったり来たりする。ベッドサイドの小さな書棚には中古の哲学書が20冊ほど並んでいたが、そのうちの1冊は大学3年生のときにレイノルズ博士から直接贈られたものだった。母親のレイチェルは申し訳なげな表情で、窓際の椅子に腰かけている。外からはベルを鳴らして自転車を乗り回す子どもたちの笑い声が、かすかに聞こえてきた。マリオンはレイチェルにたずねる。

『このこと、僕以外の人は、みんな知ってたってこと?アイリスも、父さんも?家族のなかで僕だけ、何も知らされてなかったってこと?』

『アイリスには教えてない。これから話す。知ってるのはお父さんとお母さんだけ。こういう言い方もあれだけど、』

レイチェルは緊張で汗ばんだ両手をこすり合わせて言った。

『お父さんもお母さんも、あなたにばれるのは時間の問題だって思ってた。ふたりとも内心、はらはらしてた。あなた一度、髪の毛の色のことで、質問してきたことがあったじゃない?』

マリオンは嬉しいとも切ないとも言えぬ表情で、小さくうなずいた。

『あのとき、ああ、とうとうこのときが来たかあって、お母さん思った。でも、言い出すべきタイミングじゃないとも思った。少なくとも、家族みんなのいる前では、当然、とてもとても言えなかった』

レイチェルは席を立ってマリオンに歩み寄り、彼の両手を握り締めた。

『今まで隠していて、ごめんなさい。本当に、ごめんね』 

マリオンは一度うつむくと、少しばかり潤んだ目で数回まばたきしながら、レイチェルに質問をした。

『それであの。お父さん、その、ピーターさんと母さんは、これから先もずっと別居なの』

レイチェルはふーっと息を吐くと、小さく微笑んで答える。

『離婚することになると思う』

マリオンはそれを聞いて泣いた。レイチェルは息子の頬を伝う涙を優しく拭う。マリオンは涙を流し続けるも、少し顔を赤らめて、上目遣いで笑って母親に聞いた。

『それって、……今でも博士、僕のお父さんが好きだから……ってこと?』

レイチェルは笑顔で素直にうなずいた。そして、いたずら半分でマーティンのことを恨んでみせた。

『ほんとにもう、どこ行っちゃったのかしらね、あの人。出会った頃からいつだって物静かで、静かすぎて、なんだか空気みたいな仙人みたいな人だったのよ。今みたいに、いてほしいときに限って、フッと消えちゃうような』

マリオンは手の甲で涙を拭いて笑った。 

『うん。ホント、ダメなお父さんだね。ねえ、クリスマスが過ぎたら、お墓参りへ行こうよ。今度は僕、学生代表じゃなくて、息子として行くよ』

『そうね、そうしましょう。運動神経の鈍いところは、あなたとおんなじね。落馬なんかしちゃって!意外とかっこつけしい、だったのかも』

レイチェルは泣き笑いしながらマリオンを抱きしめた。