tête-à-tête 44

『それじゃ色情魔だよ。皆が皆、そういうのが好きってわけじゃない』

『そう?俺は男なんてみんなそういうもんだと思って、面白半分でやってるだけなんだけどね』

ビレホウル王国、首都スキャルケイル。マーカスという名の青年は学生バーを出て、暗い夜道をずんずん歩いていく。シリルはそのあとを小走りでついていく。

『それじゃ君自身、損してるんじゃないか?軽い奴だと思われてさ』

マーカスは笑い飛ばした。

『ああいう場所できちんとした奴に見られようとすること自体、おかしいでしょ。所詮、遊びなんだから』

冷たい北風が吹いた。マーカスはブレザーのボタンを留めて腕を組み、背中を丸めて歩いていく。シリルはマーカスに追いつくと、思わず自分のマフラーをマーカスの首に掛けた。マーカスは再び笑う。

『大丈夫だって。そんなふうに男が男に気ィ遣ってどうすんだよ』

『俺は君のこと、男だとは思ってないよ。他の連中はどう思ってるか知らないけど。本当は君、あのときの子なんだろ?』

『あのときの子?それって勘違いだよ、何度も言うけど』

マーカスはシリルと目を合わせることなく顔を真っ直ぐ上げ、鼻唄を歌いながら軽快に歩いていく。そしてからかうようにシリルに言った。

『それこそ君のほうが男色家と勘違いされるぜ、いやだわ見てあの人、男を口説いてる!って。バーの連中からも白い目で見られてハブられるかもな、あの男……名前、何だっけ?』

『シリル』

『……シリルって奴、女好きに見えて実は男を漁るためにここに来てたのか!ってね。そしたら飲む場所、変えなきゃな』

『俺のことはどうでもいいけど。君は実際には男でもないし、今日みたいに別に軽い奴でもないんだろ?』

ふたりの前方にはイステル第2女子高等学校の寮が見える。シリルはすかさずマーカスに言った。

『ほら。あれだろ、君の住んでるとこってのは。彼女、初めて会ったときに、俺にそう言った。間違いなくそう言った』

『君もまた随分と、その子のことが気になるようで。好きなのか?』

マーカスはお構いなしにひとりずんずん先へと歩いていく。暗がりのなか、寮の門の内側で門番が立っている姿が見えてきた。門番の男性は近づいてくる人影に目を凝らすと、やがていつものようにせかせかおどおどし始める。マーカスは門の前まで来ると、突然立ち止まって振り返り、シリルを真正面から見つめた。

『は。どうせ、尻軽女に決まってる。その女自身、男を漁りに来てるんだろ、あそこに』

『彼女のこと悪く言わないでくれよ。確かに、未来のお婿さん探しとは冗談めかして言ってたけど』

シリルはやや決まり悪そうに答える。マーカスはそれ見たことかと言わんばかりに鼻を鳴らして笑った。

『ほーらやっぱり』

マーカスはマフラーを外すと、シリルの首に掛け直した。シリルは今一度マーカスの顔をじっくり覗き込んで、ややためらいがちに言った。

『今の君にこんなこと言っても意味がないのかもしれないけど。俺はちょっとその、まずその未来のお婿さん候補にでもなれたらと思ってて』

ふたりのやり取りの一部始終を聞いていた門番の中年男性は、気まずそうに門のそばでうろちょろしている。マーカスは男性のことはことごとく無視して、シリルに言った。

『おやまあ、これはこれは意外な展開。そこまで考えてるか!』

『俺ひとりの勝手な願望ではあるけどな』

『その子、美人か?』

シリルはためらいがちに答える。

『美人とかかわいいとか、そういう次元じゃなくて。何となく、その子のそばにいたいというか』

『ほおー!これはおったまげた』 

マーカスは大きな声を上げて感心めかした様子を見せる。そして突然、満面の笑みでシリルの前で敬礼のポーズを取った。

『それではボクとしましては、隊長の恋が成就せんことを、心よりお祈り申し上げることにいたします』

『誰だよ隊長って』

シリルは呆れ顔で溜め息をついた。

『とりあえず。ここが君の寮、なんだな?まあもう、今日はこれでいいから、真っ直ぐ部屋に帰ってくれ。またバーで会おう』

『おう。気が向いたらまた行くわ。それじゃまた、アディオス!』

そう言うと、マーカスは門番に門を開けさせ、寮の敷地に入る。相変わらず落ち着きのない門番の男性に向かってニヤリと笑うと、ポンポンと二度男性の肩を叩いてそのまま部屋へと帰って行った。