tête-à-tête 45

『ほれ、これ開けてみろ』

ホワイト・ヘイヴンのエスター通りにあるストラストヴィーチェ書店。1900年12月24日。店主のストラストヴィーチェ・ジュニアはマーティンに小さなプレゼントを渡す。マーティンは驚いた様子で包みを開け、小箱の中身を見る。中に入っていたのはY字型パチンコだった。マーティンは大笑いした。ストラストヴィーチェ・ジュニアもつられて笑う。

『メリー・クリスマス。今のお前にはこの手のもんがいちばん似合うと思ってな』

マーティンは少年のように目を輝かせた。

『ありがとう親父さん。でも今日僕、親父さんに何も持って来てないよ』

ストラストヴィーチェ親父は自分の顔の前で手を振って断った。

『ノンノンノン、だ。俺は別にいらん』

『でも』

『俺にプレゼントを買う金があるなら、お義父さんに何か贈ってやれ』

マーティンは恥ずかしそうにストラストヴィーチェ・ジュニアにたずねる。

『親父さん、あの。バカみたいって言われそうだけどさ。クリスマスって、大抵の人はどういう感じでお祝いするの?』

『あ?』

『いや、その。僕の父親は、こういう季節の行事とか祝い事とか、家族に全くさせない人で。僕、いまだによく知らないんだよね』

そう言うとマーティンは一瞬、レイチェルと結婚して生まれて初めて祝ったクリスマスの日のことを思い出した。そのときも、レイチェルの家族との会食やプレゼント交換、教会での礼拝といったものに、ぎこちなさを感じたものだったーーー最初、レイチェルには驚かれたっけ。あなたはどこの星から来たのって。家のことを正直に話したら、すぐに理解を示してくれたけど。確かに、僕のこれまでの人生のほうが、火星や水星での暮らしみたいに、どこか普通からズレていたんだ。家族どうしの会話もなくて、僕は勉強しかさせてもらえなくてーーー

『なあに、気にするこたあないさ』

ストラストヴィーチェ・ジュニアは自分の腹を叩いて笑った。

『お義父さんには何かお気に入りのものを贈ってやれ。確か、晩酌するのが好きって言ってたよな?』

『うん。ブランデーとかね』

『だったらそうしろ。それと、食事に誘われたら、気にせずそのまま遊びに行け。なんてったってここはホワイト・ヘイヴンだぞ?あらゆる努力は放棄して楽しく生きなきゃ、お前また損するぜ?いいじゃないか、年に数回の大遊びくらい。遊べ。楽しめ。飲めや歌えや、だ』

マーティンは今まで誰にも見せたことのないような安堵の表情で微笑んだ。もしかしたら最愛のレイチェルにすら見せることができなかったかもしれない表情だった。

『ありがとう、親父さん。それなら、ちょっとは僕も、楽しんでみるよ……あ、あれ?何あれ』

『ん?』

マーティンは突然、店の前の通りを指差した。ストラストヴィーチェ・ジュニアは店の外に目を向ける。するとマーティンはその隙を狙い、Y字型パチンコでジュニアの尻に向かって消しゴムを命中させた。

『おいこら妖魔、お前またやりやがって!』

親父は床に落ちた消しゴムをマーティンめがけて投げる。マーティンは笑って机の下に潜って逃げた。