tête-à-tête 46

ホワイト・ヘイヴン、ブレウ海近くの小さな2階建ての宿。2階にある数部屋のひとつに、シリルとリディアが泊まっている。朝の7時26分。リディアが目を覚ます。1階にあるパブからは、朝食の準備をしているのか、かすかにスープか何かのいいにおいがしてくる。

リディアは自分が赤のパジャマを着ているのに気づいた。そして、隣で眠るシリルの額を、人差し指でそっと押して笑った。シリルが目を覚まさないので、しばらくのあいだ、リディアはシリルの顔を観察してみる。痩せ型の彼の顔は、大抵いつも青白かった。整った眉毛とツンと上に向いた鼻。それから、やっぱりそんなに血色の良くない薄い唇。髪の毛だけは黒々としていた。手も観察してみる。痩せて、カサカサゴツゴツしている。彼のことを知らない人はきっと、神経質そうな印象を抱くだろうけれど、リディアは初めて会ったときからシリルのことを繊細で綺麗な人だと思っていた。

リディアはもう一度、人差し指でシリルの額を押してみる。するとシリルは目を覚ました。まだ眠そうに目をこするシリルを、リディアはじっと見つめている。

『おはよう、』

リディアは小さな声でささやく。

『お目覚めはいかがですか?』

シリルは寝ぼけまなこでリディアの肩に腕を回す。

『相変わらず午前中はずっとゾンビかしら?』

シリルは数回小さくうなずいてあくびをする。リディアは今一度、シリルをじっと見つめてたずねる。

『ねえ。私、赤のパジャマ着てるでしょ』

シリルはうつらうつらとしたままうなずいて、夢を見ているかのように話し始めた。

『うん。ああ。ハンナだったら、昨日の夜に、いなくなった』

『そうだったの。あの子、元気だった?』

リディアは今度はシリルの鼻に触れてみる。シリルはくすぐったそうに目をしばたたかせた。

『元気だったよ……あいつ、俺の前で、カニ踊りしてた……』

カニ踊り?やだ、私だったらそんなこと、恥ずかしくてできない。あの子ってほんと自由奔放そう』

『腕振り回して……カニカニカニって……』

シリルは再び眠りに落ちそうになる。リディアはシリルの唇を指でなぞった。

『ねえ。メリー・クリスマス、なんだけど。プレゼント、まだ買ってないの。何がいい?』

『……いらないよ。お前が生きていてくれさえすれば』

シリルにそう言われると、リディアはほんの一瞬うつむいて黙り込んだけれど、すぐに顔を上げて言った。

『ありがと。でも、せっかくだから、食事くらいはしに行こう。そう。せっかく話が出たことだし、ここは海沿いだから、カニでも食べに行かない?』

シリルはリディアの頭を抱くと、彼女の巻き髪をくしゃくしゃにして言った。

『そうだな……そうするか。…ただしお前まで、カニ歩きとか、カニ踊りとか……するなよ』

リディアは声を出して笑った。

『わかった。それじゃあ、あと1時間、このままのんびりしてましょう』

そう言うとリディアはシリルの胸に顔をうずめ、再び目を閉じた。