tête-à-tête 47

ホワイト・ヘイヴン市内のレストラン。1900年12月25日、午後7時。マーティンとレイチェルの父ヨハンネス、ヨハンネスの友人数名が、テーブルを囲んで談笑している。ヨハンネスは赤ワインを飲みながら、隣に座るマーティンに言った。

『実は今日はもうひとり、私の友人が来ることになってるんだが、直前になって少し遅れますと連絡が入ってね』

『男性?女性?』

マーティンは皿の上の鮭のムニエルに添えられた小さな茹で芋たちを、ナイフとフォークで軽快に刻んでいく。ヨハンネスはグラスをテーブルに置くと、わずかに顔を赤らめて答えた。 

『いやね、お恥ずかしい話なんだが、その人は私が昔、昔若い頃に恋い慕っていた女性でね』

『え。それはまた!』

マーティンは半ば本気の驚き、半ばわざとらしい仰天ぶりで笑ってみせる。ヨハンネスも酒が入って、つい口元が緩む。 

『だろう?ただひとつ、今回彼女が来てくれることで、君にもメリットがあるんだよ』

『僕に?』

『彼女はね。僕じゃなくてシリル君のお父さんに惚れていたんだよ、ほんの若い頃だったけども』

『えっ』

マーティンは口に運ぼうとしていた茹で芋を、ぽとりと皿に落とす。芋のかけらは皿の上で跳ねると、白いテーブルクロスの上に不時着して、小さな茶色いしみを残した。

『そう。狭い世界だろう?だから彼女が来たら、質問してみるといい。まあ、知って複雑な気持ちになるようなことも、あるかもしれないけれど……ああ、噂をすれば!』

ヨハンネスは店に入ってきたひとりの女性に笑顔で手招きをする。光沢のある茶色い毛皮のコートと羽根のついたロイヤルブルーの帽子姿のその女性は、ヨハンネスに向かって微笑むと、優雅にマーティンたちのいるテーブルへと歩み寄る。女性はヨハンネスやシリルの父親と同年代とは思えぬほどの豊かな銀髪姿で、その唇はとても品の良い赤の口紅で彩られていた。

『皆さん、こんばんは。遅れてごめんなさいね』

テーブルにいたヨハンネスの友人は、こぞって女性に声をかけた。女性はそのひとりひとりからハグとキスの挨拶を受けると、ヨハンネスに近づいて同じように挨拶をし、初対面のマーティンにまぶしい笑顔を向けた。

『ヨハン、こちらのお若い紳士の方は?』

『私の娘の元夫だよ』

『マーティンと申します、初めまして』

マーティンは席を立つと、好奇心と緊張とで女性の手を思わず両手で強く握り締めて揺すってしまう。女性の笑顔はますます大きくなった。

『まあまあ、随分と情熱的な方。ブリジットです、よろしくね』

ブリジットはマーティンにもハグとキスをすると、ヨハンネスの右隣の席に座る。そしてテーブルの上の料理をざっと見回すと、ウェイターがメニューを持ってくるのも待たずに自分のメニューを決めた。

『私、牛肉とポテトのグラタンをいただくわ。それと、大皿のサラダを頼んで、皆でいただかない?クリスマスだからといって、野菜不足はいけませんことよ』

 

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夜8時半過ぎ。皆でひととおり食事を済ませたあと、店内の一角でブリジットとマーティンが立ち話をしている。ブリジットは赤ワインの入ったグラス片手に、微笑みながらマーティンの質問に答える。彼女は常に笑顔を絶やさなかった。

『……そうなの、だから私、ほんとによちよち歩きのシリルちゃんのことなら、覚えているの。でも、かわいそうにあの子、いろいろなことがお父さんにあってね』

『それでお父さんは病院、シリルは孤児院……?』

ブリジットは気の毒そうな顔をした。

『そういうこと。だからごめんなさいね、それからのシリルちゃんのことは、私知らないの。ジョン、……シリルちゃんのお父さんとも、会話ができなくなってしまったものだから、お見舞いもつい、病院から次第次第に足が遠のいてしまって』

『ということは、何回かは、お見舞いに?』

『2度ほどね。私にはちょっと、手に負えない状況だったものだから』

ブリジットは悲しそうな目で微笑む。マーティンは同情心からブリジットの両手を握った。そして、自分の母親がこんなふうに優しく暖かい笑顔の持ち主だったらどんなに良かったかと、羨望と切なさとで少しばかり複雑な気持ちになった。ブリジットは言葉を続けた。

『でも、今日こうやってあなたにお会いできて、良かった。あなたとシリル、どことなく似てるのよ。いとこじゃなくて兄弟なんじゃないかと思うくらいにね』

『僕も最初そう思いました。特に髪が』

マーティンは自分の頭を指差して笑う。ブリジットも何度もうなずいて笑った。 

『あの子の家も、それからたぶんあなたのおうちでも、いろいろあったと思うの。でもあなたとシリルだったら、仲良くやっていけるんじゃないかしら。最初の取っかかりは、大変かもしれないけれど……確か、アヴァリエの子なのよね?あの子』

マーティンは力強くうなずいた。

『そこは僕も覚悟はしていて。……でも、悪いヤツじゃないと思うんです、これは直感に過ぎないけど、僕はそう思う。これからどうやって関わっていけばいいのか、正直わからないけど。でも、……何とかなるんじゃないかって、思ってます』