tête-à-tête 48

ビレホウル王国の首都スキャルケイル。1871年12月、市南部の大聖堂。午後3時前。孤児院の奉仕活動として、聖堂の中央門そばで清掃作業をしているシリルがいる。

小雪の舞う、12月らしい日だった。灰色の曇り空の下、シリルはくわえ煙草でひとり黙々と地面の落ち葉や紙屑をほうきで掻き集め、麻の袋に詰めていく。

『ハーイ、』

かがんで麻の袋の口を縛っていたそのとき、門の外で女性の声がした。顔を上げると、そこには以前学生バーで知り合った例の女の子が立っていた。シリルは驚いてすっくと立ち上がる。

『君』

ふたりは門を挟んで向かい合った。女の子はからかい半分でシリルをたしなめる。

『あなたいくつ?ダメよ煙草なんて吸っちゃ』

そう言うと、女の子は門の鉄柵越しにシリルの口から煙草を奪い取り、代わりに自分の口もとに持っていく。

『あ』

シリルは意表を突かれて急いで手を伸ばそうとするが、女の子は慣れた様子で煙草を吞んでいる。一服して煙を吐いたときの彼女の恍惚とした表情に、シリルは心を射抜かれた。女の子は腕組みをしながら、トロンとした目でシリルにたずねる。

『ここで働いてるの?信徒さん?』

シリルは苦笑した。

『信徒?まさか。孤児院の奉仕活動で無理矢理やらされてるだけだよ』

『そうなの』

制服姿の女の子は煙草を差し出し、シリルにくわえさせる。彼女の指先がシリルの唇に触れたとき、シリルは緊張で心臓がピクッと飛び跳ねるのを感じた。そして思わず門を開けた。

『私はいい子じゃないから、ここの敷居はまたげません』

女の子は聖堂の敷地内に入ろうとはせず、そのまま門の外で笑顔で立っている。それでシリルが外に出た。先ほどよりも雪の降り方が強くなってきて、女の子の頭にもはらはらと舞い落ちてくる。シリルはつい、女の子の髪に触れてしまい、急いでその手を引っ込めた。

『あのさ、名前、聞いてなかったんだよ。この前身分証明書を見せてもらったときは、学校名だけで』

シリルのくわえ煙草から灰が落ちる。彼のミリタリーコートの胸についたその灰を、女の子は手でそっと払い落とした。そして大きな目でぎょろりとシリルを見つめると、笑顔で答えた。

『リディア。リディア・ソーントン』

『リディア』

『あなたは確か、シリルよね?私、記憶力だけはいいの』

『イステル第2に通うくらいだから、きっと君、成績優秀なんだろ?』

するとリディアは再びシリルの口から煙草を奪うと、先ほどと同じように自分でくわえ、大きく息を吸った。

『やめろってば。君みたいな子が。授業は?ここいらへんうろついて、何してるの?』

『保護者みたいな言い方するのね。それとも繁華街のパトロール隊かしら』

『だってまだ3時だぜ。高校って、そんな早く授業はけるのか?』

『私はいいの、大学進学はしないって決めたから』

リディアは笑って言葉を続けた。

『それだから、バーで未来のお婿さん探しでもしようかと思って』

シリルはリディアの口からバーの話が出たので、思い切ってマーカスのことをたずねてみた。

『あのさ。……マーカスって奴から、話聞いてない?』

『マーカス?マーカス。ああ。賑やかそうな人ね、彼。正直、うるさいって言うか。話って?』

シリルは心臓がバクバクし始めたのをこらえながら、いちかばちかで言ってみた。

『いやその俺。その未来のお婿さん候補のひとりになれないかなと思って。いやあの。これはジョークで言ってるんじゃなくて』

リディアは煙草の煙を吐いて微笑んだ。そしてシリルの顔をまじまじと見ると、撫でるようにしてその頬に触れた。シリルは一瞬、めまいを覚えた。

『ありがとう。でも、苦労するわよ。これから先、私みたいなのを相手にするなんて。覚悟はできてる?』