tête-à-tête 49

ホワイト・ヘイヴン、シトルリア。酒場『ブラック・マスト』のある通り。1900年12月27日。時刻は午後5時45分。ちょうどバーテンダーが店先に看板を出しているところを、ブレウ海から戻ってきたシリルとリディアが通りかかる。

『あと10分くらい?』

シリルは数メートル離れたところからバーテンダーに声をかける。バーテンダーの男性はシリルとリディアの姿を認めると、手を挙げて答えた。

『そうだけど、君らは常連さんだからもう入っていいぞ。旅先から帰ってきたのか?荷物は?』

『荷物なら一度帰宅して置いてきたよ。デカいカバン抱えて酒飲んでたら、なんか恥ずかしいじゃん。行商じゃあるまいしさ』

シリルはリディアの肩に腕を回して煙草をくゆらせる。リディアは海で拾った桃色の貝殻を手のなかで転がして遊んでいる。

『そういえばシリル、この前君にお客さんが来てたぜ』

『客?』

シリルは別段興味もないさまで、自分の指にリディアの髪を絡ませ遊びながらたずねる。バーテンダーは雑巾で看板を磨きながら、先日マーティンと出会ったことを話し始めた。それを聞いたシリルとリディアは驚いて顔を見合わせる。そしてシリルは言った。

『従兄弟?従兄弟だって?あいつがそう言ったのか?』

バーテンダーは雑巾をバケツの縁に掛け、腰と腕とを伸ばすと、さらりと笑顔で答える。 

『ああ、そうだよ。最初聞いて俺も驚いたんだけど。よくよく見たらどことなく似てるじゃん、君と彼。それでウソじゃないなと判断した。なもんで、君らのうちの住所、彼に教えといた』

『はぁ?』

シリルは呆れ顔でバーテンダーを見た。

『て言うか俺の家じゃなくてこいつの家なんだけど?』

そう言うとシリルはリディアを守るように、彼女の肩をぐっと引き寄せた。バーテンダーはシリルのその様子を見て、笑顔で言った。

『大丈夫だよ。その人最初断ったんだよ、俺が住所教えようとしたら。向こうから教えてくれって俺にせっついてきたわけじゃない。

そうだったら教えてないさ。それにあの人、悪い人間にはとても見えなかったぞ、おっとりしてて。たぶんあれだ、教職員とか家庭教師とか、そこらへんの職種の人間だなありゃ、君と違って』

『悪かったな中卒で』

シリルはブツブツ文句を言った。バーテンダーは相変わらず笑顔のまま、吞気にシリルの肩をポンポン叩く。

『せっかくの機会なんだから。また会ってやりなよ。およそこんな店には来なさそうな珍種の客が、君のために足運んできたんだから。君は君で、彼に酒の飲み方でも教えてやれば?俺の目では、ありゃ下戸中の下戸だな』