tête-à-tête 54

ホワイト・ヘイヴン、マーティンの自宅。空き地でシリルに会ったその翌日。珍しく、早春のように暖かな日の正午。マーティンは1階の台所で、複数の木箱や紙袋の前でしゃがみ込み、箱と袋の中身をひとつひとつ取り出しては、右と左に分ける作業を繰り返している。その大半は書籍と雑誌、種々の学会や協会の刊行物で、あるものについては何のためらいもなくポイポイと『左』へ放ることができるかと思えば、またあるものについては散々唸りながらようやく『右』に置いている。マーティンは延々、独り言を繰り返す。

『これは、うーん、もう持っていても役に立たないかもなあ……、で、こっちは?これまだ僕、読んでないよね?で、しかもこっちのこれは、親父さんのとこで買ったものだから、とても捨てる気にはなれないし……あ、これは明らかにいらない、じゃあ、捨てちゃえ!』

選別作業を十数分のあいだ繰り返したのち、左へ投げたものはすべて、用意しておいた大きな綿の巾着袋に詰めた。紐をキュッと締めると、マーティンはすっかり重たくなったその袋を引きずり、廊下から玄関口へと移動させる。袋に収めた印刷物は、そのほとんどが哲学関係のものだった。

『ま、具体的に始末の仕方をどうするかは、あとで考えよ。さあ、次、次っと』

鼻唄混じりでそう言うと、マーティンは素早く廊下を通り抜けて台所に戻る。『右』側に残したものはすべて、小説とか詩集、初心者向けのちょっとした文芸評論書、画集、演劇や歌劇のパンフレット、それから草花の図鑑と育て方解説本のようなもので、大学出版局の手による学問的なものはほとんど残されてはいなかった。

マーティンは手元に残したそれら1冊1冊の書籍や雑誌を、まずは台所の棚ーシンクの真下の空間と真上の戸棚ーの2か所に並べていく。小さな戸建てなので、台所にも寝室にも階段下にもこれといって大きな収納庫はないけれど、とりあえずはすべて収めきれそうだった。床にあった最後の1冊を手に取ると、マーティンはシンク上の戸棚に詰め、棚のドアをパタンと閉じ、留め金を回した。

その後あたりを見回し、ひと段落ついたのを確認すると、マーティンは両手についた埃を払い、シンクの蛇口をひねり、手を洗う。そして裏庭に面した大きな窓へ向かい、カーテンを開け、外の景色を眺めた。真冬の厳しい寒さがほんのひととき緩んだ、穏やかな昼だった。白くまぶしい陽の光に目を細めながら、マーティンは真四角をしたささやかな裏庭の土地をガラス窓越しに見、にんまりと笑う。そしてまた鼻唄混じりで独り言を言った。

『早く春にならないかな。何かと楽しみだ。さ、お昼でも食べようか』