tête-à-tête 56

シリルの住む孤児院。シリルは奉仕活動先から帰宅する。2階にある自分の部屋へ向かうと、ドアの向こうから笑い声が聞こえてきた。シリルはすぐにマーカスだとわかった。『勉強相手』であるリディアとマーカスが自分のいない間に訪問に来たときにはいつでも部屋に通してもらえるよう、院長に依頼しておいたためだった。シリルがドアをノックすると、トトトという軽快な足音とともにドアが開いた。

『いらっしゃい』

『それはこっちのセリフだわ』

『仕事、終わり?』

『ああ』

シリルは言葉少なに部屋に入るとコートを脱ぎ、机の上に放った。マーカスはシリルのベッドに上がると、読みかけの風刺漫画本に戻る。シリルはベッドの縁に腰掛け、漫画を読んで子どものようにけらけらと笑うマーカスの頭を撫でて言った。

『マーカス俺さ、』

『んー?何?きゃはははは』

マーカスは脚をばたつかせて笑う。

『マーカス、俺、とあるグループに入ろうかと思ってるんだけど』

『え?グループ?どんなグループ?』

マーカスはほとんど無関心な様子で、食べかけのビスケットの包みに手を伸ばす。シリルはマーカスの口もとについているビスケットのかけらをつまんで食べた。

『アヴァリエって、聞いたことあるか』

すると突然、マーカスの目の色が変わった。マーカスは本を放り投げ、シリルの前で正座をして興奮気味にたずねた。

『アヴァリエ?アヴァリエってあの過激派組織?』

『実際にどんだけ過激なのか、俺も知らんけどな』

『で?で?あの人たちって、銃とかバンバン撃っちゃうんだろ?お前もそういうことしたいってこと?』

『銃が最大の目的ってわけじゃないんだけどさ』

マーカスははしゃぎ出した。

『シリル、お前がアヴァリエ入るんなら、俺も一緒に入る!俺、もうバンッバン撃っちゃう!』

『ほんとかよ』

『うん!』

『……わかった。なら近いうち、グループのリーダーに接触してみるよ。それから、』

シリルはマーカスの肩に手を置いて言った。

『今後は極力毎週、土日にはここに来て、できるだけ長い時間、この部屋で過ごしていってもらえないか。夜は俺が必ず寮まで送る』

マーカスは目を大きくしてからかうように言った。

『お?さてはお前、リディアといちゃつきたいんだな?』

『それは今ここではどうでもいいから。約束してくれるな?』

『うん、いいよ、ここで飯食わせてもらって、遊んで帰る』

『よし、OK。俺、顔洗ってくる』

シリルはベッドから立ち上がり、部屋の奥にある狭い洗面室とシャワーブースへと向かうが、途中で引き返してマーカスに口づけた。マーカスはわざと興奮したそぶりをしてみせ、ゲラゲラと笑った。

『うわおぅ、男が男にキスをした!』

『約束だからな。土日はここにいろ』

 

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シリルは洗面室に入ると、蛇口を目一杯開いた。そして今日、奉仕活動先で知り合った男の言葉を、心のなかで何度も何度も反芻した。

《見てくれ。これが私の愛する娘の肖像画だ。どうだい、綺麗な子だろう?彼女はとても優秀で、王国でも屈指の女子校に通っていてね》

《これまでは毎週末、必ず実家に帰ってくるように言ってきたんだが、ここのところどうにも寄りつかなくなってしまって》

《だから今後は、私が娘のいる寮に赴いて、娘に挨拶しに行こうかと思っているんだ》

シリルは吐き気を催して激しく咳き込んだ。繰り返す咳がマーカスに聞こえないよう、タオルで口を押さえてしゃがみ込むと、怒りに肩を震わせて泣いた。