tête-à-tête 57

『今日で良かったかもね。1日だったら、どうだろ、ひょっとすると開いてなかったかも』

ビレホウル王国の首都、スキャルケイルの中心部。エレナ・エスタゴー庭園墓地。1901年1月3日。広い庭園の一角に造られたこぢんまりとした墓地を、レイチェルとマリオンが訪れる。墓地の正門からわずか1、2分ほど歩いたところに、マーティンの墓はあった。

マリオンは鞄からあるものを取り出して、いたずらっ子のような顔で母親のレイチェルに言った。

『ねえこれどう思う?木馬のオモチャ。ちょっと嫌がらせで置いてみようか』

『やめなさいってば』

レイチェルはくすくすと笑う。マリオンはおもちゃをしまうと、今度は光沢のある小さな絹の包みに入った砂糖菓子を鞄から取り出した。

『はいはい。母さんが置いてほしいのは、こっちなんでしょ。相変わらず砂糖、砂糖なんだから』

『ある意味これも嫌がらせかしらね?虫歯にしてやる太らせてやる!みたいな感じ?』

レイチェルはマリオンから包みを受け取り、墓の足もとにそっと置いた。マリオンは好奇心からレイチェルにたずねる。

『父さんってさ、若い頃、どんな外見だったの?』

『それがね。年取ってからもほとんど変わらなかったのよ。ほんとに、あのまんま。黒い髪に黒ずくめの服装、あれだけ砂糖、砂糖言うくせに、食べたいだけ食べて、ちっとも太りやしないの。ズルいわよね』

マリオンは面白がってさらに突っ込んでみる。

『で、で、ふたりの馴れ初めは?どっちが最初に声かけたの?』

レイチェルは初めて自分がマーティンに口づけをした日のことを思い出し、懐かしそうな顔で遠くを見ながら答えた。

『そうねえ。声をかけてきたのは、あっち。でも、引き入れたのは、私かしらね』

マリオンはゴツゴツとした木馬のおもちゃに鞄の上から触れ、空を見上げて笑った。

『僕が初めて父さんを見たのは、確か大学1年のときの空間内延長主義っていう哲学の講義だったと思う。こう言っちゃなんだけど、恋をして結婚もして子どもももうけるような人にはとても見えなかったな。博士やっててしかも仙人みたいな風貌してるくせに、こっちの世界でやることはちゃっかりやってたわけだ』

レイチェルは苦笑してマリオンに注意した。

『それはちょっとお父さんに対して失礼よ。今も言ったけど、引き入れたのはきっとお母さんのほうなんだから』

『わあ、誘惑者だ誘惑者』

『酷いわねあなたも』

マリオンは満面の笑みでレイチェルに向かって言った。

『ううん。すべてちゃっかりやってくれて、感謝してるんだよ。父さんにも、母さんにも。でなきゃ僕は、ここにはいない』

『たまにはいいこと言ってくれるじゃない』

『母さんさ、僕のことを見て、どう思う?父さんの面影って、ある?』

マリオンにそうたずねられたとき、レイチェルはふと、何かに守られているような温もりを肩と両手のひらに感じた。そして冗談混じりに笑って答えた。

『ええ。いっつも見えるし、いるって感じるわよ。ホントにあなた、チビ・マーティンって感じ。ますます似てきた。だからあなた、いつかはいい人見つけなさい。チビ・マーティンにずっとそばにいられるのは、倫理道徳上、誘惑できない誘惑者としてはきっとつらいわ、母さん。だから私自身もう一度、親マーティンを見つけに行かないとね』