tête-à-tête 58

1900年12月31日。ホワイト・ヘイヴン市内のリディアとシリルの家。午前8時ちょっと過ぎ。リディアは昨日の夕方早くにシリルの部屋に来て眠った。シリルは静かにベッドから出る。リディアは丸1日、あるいは2日に渡って昏々と眠り続けるときがあった。今朝もそんな感じかもしれないとシリルは見て取ったので、今日1日はリディアの部屋と自分の部屋とを行き来して、ゆっくり掃除をしたりすることに決めた。

シリルはすぐ隣にあるリディアの部屋へ入る。出窓のカーテンを開けると、外は快晴だった。少しだけ出窓を開けて、しばらくのあいだ外の空気に触れてみる。大晦日の朝らしい、痛いほどに冷たい空気だった。シリルは窓ガラスを閉め、ベッドシーツの交換でもしようと、リディアのベッドの周りをぐるりと通り、普段シーツやタオルを入れてある枕元のチェストへと向かった。そしてそのチェストの上に置かれたものも、これまたいつもどおり、これと言って特筆するほどのものではなかった。櫛に練り香水の入った小さな金細工の容器、リディアやハンナ、マークにせがまれたときに読むための絵本、ふたりで市場まで買い物へ行ったときの釣り銭が少し。家族の肖像画や『写真』と呼ばれる新しい発明品は、そこには1点も置かれていなかった。自分と全く同じだと、シリルは改めて思った。

シーツを取り替え、くず入れの中身を空にすると、シリルはリディアの眠る自分の部屋へと戻る。リディアは相変わらず深い眠りのなかで微動だにせず、寝息だけが布団の隙間からわずかに聞こえた。シリルはちょっぴりいたずらをしてやろうと思い、自分の机にあった万年筆を手に取り、それでリディアの鼻をつついてみた。全く起きない。次はリディア自身がシリルによくするように、額をつっついてみる。するとリディアは寝返りを打って、シリルのほうに背を向けた。シリルはその背中が呼吸とともにゆっくりと動くのを眺めながら、彼女のうなじから腰の上部にかけてできた、無数の擦り傷と打撲痕を初めて見た日のことを思い出した。リディアはシリルと同じように、痩せ細った体をしていた。そして今日のように昏々と眠り続けては、体がまともに動かず、部屋のなかを歩くのもやっとという日があった。シリルはベッドの反対側へ回って、眠るリディアの顔を見た。ともに暮らし始めて最初の頃は、目覚めた瞬間に彼女がリディアのままで起き上がるか、マーカスになるか、それとも他の子どもたちになるのか、見当がつかないことにうろたえた。今では誰であろうと気にならない。リディアは暑かったのか、もぞもぞと右腕を布団から出した。パジャマの袖から突き出た手首と手の甲には、切り傷があった。シリルはもう一度リディアの顔を見るとその手を握り、指先に口づけた。1、2分、そのままでいると、やがてリディアは目を覚ました。

『おはよう。お前、また随分と良く寝てたな』

リディアは甲高く幼い声で答えた。

『目玉焼きが食べたい』

シリルは笑った。

『わかった、ハンナ。今すぐ作る。いつもどおりの2つ目小僧でいいな?』

ハンナは眠たそうに目をこすると、一度うなずき、それからシリルの首に腕を回して抱きついた。