tête-à-tête 64

ホワイト・ヘイヴン市内、シリルとリディアの自宅近くにある公園。午後4時。リディアは昨日からまた昏々と眠り始めている。シリルは外の空気を吸うため、また自宅に届いたマーティンからの手紙に目を通すため、ふらりと家を出て公園のベンチに腰掛けた。1月の夕方のせいか、あたりには人っ子ひとりおらず、夕焼けとともに何となく寂しい雰囲気があたりに漂っている。

シリルは封筒の端を千切ると、クリーム色の便箋数枚を手に取って読み始める。元学者に似つかわしく……とでも言うのか、マーティンの筆跡はとても整っていて、感情の波がまるっきり表に出ていなさそうな落ち着きがあった。

シリルへ

元気にしてる?

僕は偏頭痛持ちなもので、夜の賑やかな酒場とかは、ちょいと行きづらい。客の少ない夕方に会えると最高なんだけど。なので今回は、こうして手紙を書かせてもらってる。 

ヤワな奴だな、シリルはそうひとりごちて苦笑した。

彼女さん、リディアさんも、元気にしてる?僕はあのとき、君に介抱してもらってるときにちらっと姿を見ただけなので、どんな方なのかは相変わらずわからないのだけど。僕の元奥さんは今もビレホウルのスキャルケイルにいるから、紹介できなくて残念です。まあ、あまり早くこっちに来られてもね。

まあ、俺もお前もリディアも全員亡霊だからな。加わりたくないだろうよ。

数日前、変な夢を見たよ。奥さんと息子がふたりして僕の家にやって来るんだけども、息子のヤツ、僕が落馬してこちらに来たのを知ってか知らずか、おもちゃの木馬、ホントにガラクタみたいな茶色の木馬人形を、『お土産に』と言って台所のテーブルに置くんだ。で、奥さんも共犯者なのか、ぷぷぷと笑ってる。ありゃ参ったね。ふたりともトラウマ誘発剤そのものだ。

落馬してこっちに来たっつうお前もお前で、なかなかの間抜け野郎だけどな。シリルは煙草に火を着けて手紙を読み進める。

僕はちょっと、マヌケなところがあるので、

自分でよくわかってるじゃねえか、

シリル、君の話を聞いても理解できない部分が多々あるとは思う。虐待……といっても、僕が受けたのは『会話のない、冷めた家庭』『お金を渡すことだけが愛情表現』といった程度のことだから、君が味わわざるを得なかったたぐいの虐待に共感を示せるかは、未知数です。

シリルは静かに最後の便箋1枚に目を通す。公園内の木々が穏やかな北風に揺れ、木の葉の擦れ合う音だけがシリルの耳に入った。

とにかく。君の話を聞けたらと思う。先にも書いたけど、夕方なら例の酒場でもオッケーだし、なんなら僕の家に来てくれても全く構いません。基本的に月・水・金は、終日暇だから。封筒にも便箋の最後にも住所を記しておくので、直接会いに来てくれるのでも、事前に手紙で連絡してくれるのでも、どちらでもいいです。それでは、また会えるのを楽しみにしています。

ガードナー通り

26d 18q

ホワイト・ヘイヴン市

マーティン・フラン・レイノルズ

シリルは便箋を折り畳むと、封筒とともにコートの内ポケットに入れ、ブーツの先で煙草を静かに揉み消した。そして煙草の吸い殻を拾うと、リディアが目を覚ましたときのために食事を用意しようと、真っ直ぐ家へと戻って行った。