tête-à-tête 70

『ところで、さっき言ってた【イケメン】って単語、どういう意味?』

『馬を走らせたらピカイチの男、くらいのことだろう、きっと』

『え?なになに?マーティンって馬好きなの?』

『なんかあらぬ方向に会話が進んでいる気がするんだけど。まあ、いいか』

マーティンはシリルとマーカスを台所兼食堂に招く。廊下を抜ける途中、マーカスは壁に掛かっている数点の油彩画を物珍しげに眺める。

『へー、油絵。お前もたまーに描くよな?油絵とか、デッサンとか』

マーカスはシリルに言った。

『人に教えるほどのもんじゃないよ』 

シリルは自分の趣味を隠しておきたかったのか、静かに控えめな声で答える。マーティンは興味深げにシリルにたずねた。

『そうなんだ。僕、絵には詳しくないんだけど、好きな画家とかいる?』

『画家は特にはいないけど。進歩派っていう、19世紀半ばくらいまでの主義は好きかな』

マーティンはふたりを食堂のテーブルに着かせると、コーヒーカップを3つ用意してお湯を沸かす。

『進歩派か。ありがとう、調べてみるよ。えーっと、シリルはコーヒー、マーカスは紅茶がいいんだっけ?』

『イエス、サー』

マーカスは素早くマーティンのほうを振り向いて答える。そしてテーブルの上に用意されたクッキーと茹でサツマイモに早速手を伸ばそうとするも、シリルに軽く叩かれる。それを見たマーティンは笑って言った。

『好きなだけ食べてってよ。僕、甘党でさ。クッキーは近くのお菓子屋で見つけて、サツマイモは去年僕が庭で収穫したもの』

『それじゃ、お言葉に甘えて』

マーカスは呆れ顔のシリルを尻目に、茹でサツマイモのなかでいちばん大きなものをひと切れ、大きく開けた口に放り込み、いつもよくやるようにシリルに微笑みかけた。

 

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『たぶん、シリルもマーカスもそうだと思うんだけど、……こっちには知り合いって、そんなにはいないよね』

マーティンは砂糖を山ほど入れたコーヒーをすすりながらふたりに言う。本当は最初、自分も紅茶にしようかと思ったけれど、以前占い師の女性に助言されたことをすっかり忘れてレモンを買わずにいたので、いつもどおりコーヒーにすることにした。シリルは少し考えてからマーティンにたずねた。

『そうだな。俺には特に。お前もそうなのか?』

『うん。僕なんかはほら、自分の親よりも早く来ちゃったし』

『落馬な』

『落馬したのマーティン?!』

マーカスがイモでいっぱいの口で話に加わってきた。

『そうなんだよ落馬なんだよ、こいつ、落馬してこっち……』

『ふたりともどこまで馬ネタで僕をいじめたがるんだか、』

マーティンはわざとらしく溜め息をついて笑った。

『……まあそれはそうと、前の奥さんも知人・友人もまだこっちに来ていないっていうのは、やっぱり僕にはちょっと、寂しいかな』

『俺は自分の親なんかはいなくていいと思ってるけどね』

『うん、まあ……、そこは正直僕も……』

『僕の父さんはとっくにこっちに来てるけどね、』

マーカスがはっきりとした声で割って入った。

『マーカス』

シリルが小声で注意するも、マーカスは気に留める様子もなくシリルの隣で話を続けた。

『僕ぁ父さんがこっちに来てても来てなくても、シリルと一緒にいられれば大丈夫なんでね。それに僕らはアヴァリエなもんだから、もし万が一何かあっても、それこそピストルでドンパチやっちまえばOKってこと。余裕だね、こりゃ』

そう言い切るとマーカスはサツマイモをもうひと切れ口に入れ、ハムスターのように頬を膨らませてにんまりと笑ってみせた。