tête-à-tête 72

ホワイト・ヘイヴン市内のマーティンの自宅。マーカスは裏庭に出て、マーティンのY字型パチンコで小石を飛ばして遊んでいる。シリルは食堂の掃き出し窓を少しだけ開けさせてもらい、マーカスに声をかける。

『寒いから、長居するなよ』

『イエス・サー』

マーカスは歯を見せて笑う。シリルはやれやれといった様子で首を振り、テーブルに戻る。マーティンは興味深げにシリルにたずねた。

『リディアさん、いやその、どっちの名前でいいのかわからないけど、……マーカス……って、面白い子だね。君の前でも普段からああいう感じ?』

シリルはコーヒーをひとくちすすると、肩をすくめて笑った。

『まあな。マーカスのときは、いつもああいうおちゃらけ野郎ではあるな』

『とき、って言うと?』

『ああ、』

シリルは自分が長年見てきたことにあまりにも慣れすぎてしまっていて、こうして人に打ち明けるときには説明が必要なことすら忘れていた。

『変わるんだよ。いや、【変化】というよりも、入れ【替わる】。スキャルケイルにいたときから、ずっとそうだ』

『何のために?…ビスケット、いる?』

『ああ、もらうよ、サンキュ』

シリルは皿の上のビスケットを1枚つまんで話を続けた。

『さあ、何のためなんだろな。他にも子どもがふたり出てくる』

『子ども?』

『ああ。そいつらが出てくるとな、こういうビスケットはひとたまりもなく食い散らかされて、それこそあっという間に台所から消えるぜ。食費がかさむの、なんの』

そう言うとシリルはマーティンの前で初めて豪快に笑った。マーカスと同様、お菓子を口に頬張って笑うハンナとマークの姿があまりにも愛おしくて、思い出しただけで笑いがこみ上げてきた。マーティンはシリルに微笑みかけた。

『すごく好きなんだね』

『?何が。あいつらの食いもん好きがってことか?』

『リディアさんのことだよ、』

マーティンはにんまり笑った。

『君はほんとにリディアさんのことが好きなんだろうなって』

シリルは少し気恥ずかしそうに、コーヒーカップに視線を落とす。そして裏庭でケラケラ笑いながら遊んでいるマーカスのほうに目をやると、静かに話し始めた。

『ああ。お前の言うとおりだ。俺も嘘は言わない。文字どおり、あいつなしには俺は生きてはこられなかった。向こうはどうか、わからないけどな』

シリルは遙か昔、リディアから受け取った『10月23日』付けの手紙をふと思い出した。それからまた別の年の同じ日に、自分が小銃の引き金を引いたことも、思い出した。リディアの過去について今後マーティンに話すべきか、シリルにはまだまだ答えが出せなかった。むしろマーティンに気づかれるのも時間の問題かもしれない、もしそうならあるがままなすがままにすべきかもしれないと、シリルはぼんやりと考えた。

『結婚してるんだっけ?』

マーティンは穏やかにたずねた。シリルは首を横に振った。

『そういうものが俺たちのあいだに必要かどうか、今まで考えたことすらなかった。ただ最近、指輪くらいは買ってやろうかとは思ってる。喜んでくれるかどうかは、わからんけどな』

『そりゃきっと喜ぶよ、そういう気持ちがシリルのほうにあるってだけでリディ……』

『やっちまった!』

突然、マーカスが裏庭から駆け込んできた。シリルは振り向いてマーカスにたずねた。

『やっちまったって、何を』

マーカスはマーティンのY字型パチンコを右手で振り回して言った。

『命中しちまった。鳥に。小石がコツーンって。で、鳥、今、お隣の庭で気絶中』

マーティンはあまりの面白さに笑いを抑えきれなかった。シリルも毎度毎度のマーカスの奇行に頭を抱えて苦笑した。マーカスはパチンコを振り回し続けて言った。

『何、何がおかしいんよぉ。ホントにコツーンって当たっちまったんだから。鳥、すとーんって生け垣から落っこちて、お隣さんのほうに行っちまったんだから!』