tête-à-tête 80

1872年、春。スキャルケイル市内のヤンセン孤児院。シリルの部屋。リディアがシリルの目の前で、自分と父親とのあいだに起きていることをぶちまけたあと。ふたりはベッドの端に寄りかかり、膝を抱え、隣り合って床に座っている。

『ごめんなさい。ごめんなさい』

リディアは顔をうずめて謝罪した。涙がぽたぽた流れ落ちてくるのを必死に隠そうとするけれど、ぐっと息を止めて泣くまいとすればするほど、彼女の頬と耳が赤らんでくるのがシリルにははっきりと見て取れた。シリルはリディアの謝罪の言葉を遮った。

『なんで君が謝るんだよ、君は何も悪くないじゃないか』

リディアは首を横に振った。 

『私のせいでこんなに不快な気分にさせちゃって。こうして、私なんかがいるからダメなのよ。汚くて、出来損ないで』

『やめろよ何言ってんだよ』

リディアは真っ赤になった顔をゆっくりと上げた。涙で濡れた頬には、ウェーブのかかった赤茶色の髪が乱れてへばりついていた。シリルはためらいがちに彼女の髪に手を触れ、櫛ですくように静かに撫でた。リディアは微笑んだ。

『優しい人なんだね、あなたは。絵も描いてるの?』

リディアは床に立てかけられた、描きかけの油彩画に目をやる。シリルは小さな声で答えた。

『……たまにね……、確かな情報じゃあないんだけど、俺の父親、画家だったらしい』

『親譲りだね、きっと。お父さんお母さんとは、今でも会うこと、ある?』

『いや、』

今度はシリルがうつむき加減で目を反らした。

『俺もさ。何と言うか、その。2歳、3歳くらいの頃に、親父に暴力振るわれてたみたいなんだよね。はっきりとした記憶はないんだけど』

『じゃあ、ここには子どもの頃からずっと?』

シリルはうなずいた。そして冗談めかして言った。

『君が背中の傷のこと教えてくれたから、俺も話すよ。せっかく、親から【いただいた】贈り物だからさ。もう薄くて、見えないとは思う。暴力振るわれたんじゃなくて、ただのヤケドなんだけど、お袋も親父から暴力受けてたから、俺のこと病院へ連れて行ける精神状態じゃなかったらしくてさ』

そう言うと、シリルは右手親指全体にうっすらと広がる傷痕を、左手でなぞりながらリディアに示した。

リディアは黙って傷痕を見つめ、その後シリルに向き直ったかと思うと、それからまた床に目を落とした。そして再びシリルの目を見ると、静かに首を傾け、彼の左肩に頭をもたせかせた。

シリルも目をつむって、リディアの頭に自分の頭をこつんと合わせた。そしてふたりともそのまましばらくのあいだ、身じろぎひとつせず、静かに膝を抱えて座っていた。