tête-à-tête 83

ホワイト・ヘイヴン市内、エスター通り。シリルとリディアは食堂をあとにし、通りを挟んで真向かいにあるストラストヴィーチェ書店へと歩いていく。シリルは古い絵本が数冊入った袋を手に携えている。書店の窓ガラスに近づくと、ガラスに刻まれた白抜きの店名の向こうに、脚立か何かに乗っている男性のスラッとしたふくらはぎが見える。シリルはリディアに笑顔でうなずき、彼女の手を取って店のドアを開けた。

チリリン、とベルが鳴ると、男性は振り向き、訪れたふたりの客を見るなり笑顔で挨拶をした。

『やあ、これはこれは。いらっしゃい!』

シリルは脚立から降りてきた男性と握手を交わして言った。

『連れてきたぜ。マーティン、こちらがリディア。リディア、こいつが例のイケメンだ』

マーティンはリディアに手を差し出す。リディアは痩せた小さな手を静かに前に出し、少しばかりぎこちなく微笑んでマーティンと握手をした。

『初めまして、私、リディアっていいます』

マーティンはおおらかな笑顔でリディアに言った。 

『リディアさん、お会いできて光栄です。僕は【馬を走らせたらピカイチの男】って意味では、これっぽっちもイケメンじゃないけどね』

リディアはマーティンのジョークが理解できず、おどおどとしてシリルのほうを見る。シリルはリディアに説明した。

『マーカスがさ。こいつのことイケメン、イケメンってはしゃいでうるさいもんだから。それで俺がイケメンの定義をこいつに教えてやったんだよ。こいつ、落馬してこっちの国に来たから』

『また落馬ネタ』

マーティンはわざとらしくウンザリしてみせる。そして脚立を片づけながらふたりに言った。

『どう?奥の部屋でお茶でも。僕、ひとりで店番する以外に、これといってできる仕事がまだないんだよね。帳簿づけとか買い取りとか。だから基本、暇で』

すると奥の部屋からストラストヴィーチェ・シニアが声をあげた。

『お茶は国内産に限るぞお。輸入もんは、不味くてかなわん』

『お爺さんも一緒に飲ーみまーすかー?』

マーティンは部屋のほうを向いて大きな声でシニアにたずねた。するとシニアは右手を上げてうなずいた。シリルは不思議そうにマーティンにたずねる。

『誰?』 

『ここの店主のストラストヴィーチェさんのお父さんでさ。今後は家政婦さんが来てくれて、面倒見てくれることになってる。ま、とりあえず、みんなでお茶しよう』