tête-à-tête 87

『私ね、よく子どもの頃、綿飴とか、ちっちゃなチョコレートを買いに、お小遣い握り締めて近所のお菓子屋さんへ行ってたよ、』

シリルとリディアの自宅キッチン。リディアはジャムの空き瓶に、ストラストヴィーチェ・シニアから貰った4プリエ分の硬貨を入れて言った。

『だからこのお金も、お菓子を買うために貯金しておこうかなと思う。シリルは?今日貰った4プリエ、どうする?』

シリルはあてずっぽうに答えた。

『さあな。煙草代に消えるかもな。コーヒー、飲むか?』

『私は紅茶がいいかな』

『オーケー。今用意する』

シリルは椅子から立ち上がると、やかんに水を入れ、火にかける。そしてシャツの胸ポケットからシガレットケースを取り出すと、煙草を1本つまみ、コンロの火に近づける。

『なあリディア、』

シリルは火の着いた煙草を口もとに持っていき、静かに煙を吸うと、ぽつりと言った。

『何か欲しいもの、ないか。駄菓子以下にってことだけど』

リディアは椅子に腰掛けたまま、肩をすくめて気恥ずかしそうに笑った。

『いつも同じ返事になっちゃうけど。私はあなたにいてもらえれば、それ以外には特に大きなことは望まない』

シリルは紅茶ポットに沸かしたての湯を注ぐ。そして食器棚からクッキーの入った缶を取り出し、蓋を開けてリディアに差し出す。

『好きなの取って』

『ありがとう』

リディアは真ん中にサクランボの砂糖漬けが乗ったクッキーをつまむ。シリルは煙草をシンク横の灰皿の端に置くと、チョコレートクッキーを1枚選んで、口にくわえた。

『じゃあ、マーカスたちの【餌代】ってことで、貯めておくわ』

『餌代って!ひっどい』

リディアは怒ったそぶりをしてみせた。

『いやマジでな、お前は知らないだろうけど、あいつら食うからな』

シリルは昔、マーカスが夢中になってクロワッサンを頬張ったせいで、顎が動かせなくなってとんでもない形相になったのを思い出し、ゲラゲラ笑い出した。

『まあ、食い気があるってのは健康な証拠だからな、赦してやる』

シリルは紅茶をカップに注ぎ入れ、リディアに手渡す。それから、食器棚の最上段の奥にあった、小さなブリキ缶を引っ張り出した。

『この空き缶、使ってもいいか?これでヘソクリしてやるよ』

リディアは上目遣いで紅茶をすする。

『ヘソクリの場所を教えたら、ヘソクリじゃないじゃない』

『じゃ置き場所変えてやる、』

リディアはわざと呆れ顔をして、私は取り合わないわよと言わんばかりに首を横に振ってみせた。シリルはズボンのポケットに入れたままだった4プリエ分の硬貨を、ブリキ缶に放り入れる。そして缶を片手に持ってカシャカシャ鳴らしながら、リディアに言った。

『これ、部屋に持ってくわ。貯まったらお前らの好きなもの買ってやるって、約束する。ちと置いてくる』

そう言って、シリルは一度2階の自分の部屋へと向かう。部屋に入ると、再びズボンのポケットに手を入れて、皺くちゃになった紙幣を1枚、取り出す。そしてブリキ缶の蓋を開け、紙幣の皺を綺麗に伸ばして、中に収めた。缶をとりあえず枕元に置くと、シリルは右の手指で数を数えながら、リディアの待つ台所へと急いで降りて行った。