tête-à-tête 88

ホワイト・ヘイヴン市内。1901年2月1日。レイチェルの父ヨハンネスと友人のブリジットが、蚤の市が開かれているキャシュトーレ通りをぶらついている。午後2時。光沢のある薄茶色の毛皮のコートに身を包み、指先には深紅のマニキュアを塗ったブリジットは、曇天の鉛色の空の下ではひときわ目立って見える。ブリジットはヨハンネスのコートの袖に触れて言った。

『今日は寒いわね。それにしても何だか不思議な気がしない?』

『不思議って、何がだね?』

ヨハンネスは北風にハンチング帽を飛ばされないよう、手で頭を押さえる。

『あなたと私がこんなふうに一緒にお出かけするだなんて、あの頃を振り返ったら、意外な展開よね』

『まあ、君はジョンに夢中だったからなあ』

『でもジョンはシボーンに夢中』

『それで僕は君に夢中だった。懐かしいね。何十年前のことだろう』

ふたりは顔を見合わせて笑った。ブリジットは杖で歩くヨハンネスに寄り添い、艶のある濃紺のハイヒールをコツコツ鳴らしながら優雅に歩いていく。ふたりでしばらくのあいだ市場の出店を冷やかして回ると、キャシュトーレ通りとレラン通りの角で、美術品を売る露店を見つけた。

『ヨハン、ちょっと私、このお店見ていいかしら?玄関ホールに飾る絵を探してるの』

ブリジットは店先の古びた木のベンチに並べられた、5、6点の油彩画を物色し始める。それらのどの作品にも額縁はついておらず、絵の描かれたキャンバスは外枠のそこここで縫い糸がほつれ、決して良い状態のものではなかった。ブリジットはそのうちの1点を手に取ると、怪訝な顔をしてヨハンネスのほうを向いた。

『ねえ、この絵。何だかおかしいの。作風に覚えがあるというか…………あっ、』

ブリジットは驚いて小声で叫んだ。ヨハンネスは不思議に思い、ブリジットが手にしている絵を覗き込んだ。

『どうしたね?僕には普通の油絵にしか見え……』

『ヨハン、見て、この名前』

ブリジットはキャンバスの右下に書かれた作家名を指でなぞった。その名前はペールブルーの絵の具で筆記体で書かれており、一部剥げかかっていたものの、『Joh』と『Re』そして『lds』とはっきり読めた。ふたりは驚いた様子で互いに顔を見合わせた。ブリジットはすかさず露天商の主人に値段をたずねる。

『それなら115プリエだけど、』

店の主人は古い当て布をしたボロボロのスツールに腰掛け、煙管をふかしながら答えた。

『俺は綺麗なご婦人方にはてんで弱いんで、95にまけとくよ。買ってくかい?』