tête-à-tête 89

『うん。確かに。確かにそう書いてある』

ホワイト・ヘイヴン市内、ヨハンネスの家。

ヨハンネスとブリジットそしてマーティンが食堂のテーブルに着いている。テーブルの上に置かれた油彩画を見て、マーティンは答える。ブリジットはコーヒーをひとくち飲むと、静かにカップを皿に置いてマーティンに言った。

『その人がね、あの子のお父さん、だと思うのね。もちろん、同姓同名の人なら数えきれないほどいるけれど、見覚えのある作風だったものだから』

『つまり、シリルのお父さんってことは、僕の伯父』

『そういうことだね』

ヨハンネスはうなずいた。するとマーティンは絵をいろんな角度から眺めて、やや困惑気味に言った。

『何だか不思議じゃない?これ、骨董品扱いでしょう。なのに描いた本人は今でも恐らくビレホウルで生きていて、こうして手にしている僕らが先にこっちに来ているんだもの』

『もしかしてあなたのお父さんも、まだあちらに?』

ブリジットは穏やかな声でたずねたが、マーティンは一瞬ブリジットから目をそらして、ためらいがちに答えた。

『うん。そうだと思います。でもね、これはシリルとも話したことなんだけども、……正直、父親にはこっちには来てもらいたくないよねっていうのが、僕らの本音で』

『そうね、そうよね。ごめんなさいね、イヤなこと聞いてしまって』

ブリジットはマーティンの手に自分の手を重ねて謝罪した。

『それでね、シリルちゃんのことなんだけど、……私、シリルちゃんに会うことできるかしら?』

『彼に君の記憶はあるんだろうか?』

ヨハンネスは腕組みをしてブリジットにたずねた。ブリジットはヨハンネスにうなずいて、少し悲しげな面持ちで答える。

『そこはね、全く期待できない。なにせあの子が2歳になるかならないかのときだったから。でも私としては、当時のシリルちゃんを知っているから、やっぱり、大きくなったあの子をひと目見たいの。無理かしら?』