tête-à-tête 93

『俺が殺したんだ、俺が殺したんだ……、』

ホワイト・ヘイヴン市内、エスター通り。1901年3月。午後4時。シリルはひとり、同じ言葉を繰り返し繰り返しつぶやきながら、ストラストヴィーチェ書店へと向かう。

『俺があいつの父親を殺したんだ、俺が……、』

歩くスピードに合わせて、シリルは自作の【台詞】の練習をする。けれども書店を目の前にしたときには、歩くリズムは乱れ、準備した台詞も店のガラス窓の一歩手前で途切れた。

シリルはガラス窓から店の中の様子を覗いた。そこにはいつもどおりマーティンがいて、いつもどおり会計カウンター横の机で仕事をしていた。ドアを開けて中に入ろうか、引き返そうか、シリルは迷った。けれども答えを出そうとする前に、マーティンのほうがシリルの姿に気づき、素早くカウンターの外に出ると笑顔でドアを開けにやって来た。

『やあ、どうしたの、まあ中に入って』

マーティンはいつもと何ひとつ変わらず、穏やかな口調でシリルに呼びかける。シリルはミリタリーコートのポケットに両手を突っ込んだまま小声で挨拶をすると、黙って店の中に足を踏み入れる。マーティンは静かにドアを閉め、笑顔でシリルに言った。

『今日はリディアさんは?コーヒー飲む?』

シリルはコートを脱いで店の真ん中に立ち尽くしている。

『……ああ、飲むよ。ありがとう。……リディアは家で眠ってる』

マーティンは心配そうにシリルの顔を見る。

『具合悪いの?』

『いや、睡眠バランスが悪いんだ。丸2日間眠ってるときもある』

『……そうなんだ。まあ、病気でどこか痛いとか、そういうのでなければ、僕としても安心なんだけど』

マーティンはコーヒーを用意しようと、奥の部屋へ行こうとする。シリルは小さく咳払いをし、右の手のひらを見つめて、それからゆっくりと顔を上げて口を開いた。

『マーティン、俺……』

『あ、そうそうシリル、実は僕からも手紙で伝えようと思っていたことがあってね、』

シリルの神妙な面持ちには少しも気づくことなく、マーティンはシリルの言葉を遮り、振り返って明るくはきはきとした口調で言った。

『君に会いたいって言ってる女性がいるんだ。僕の義理の父の友人で、僕らの親と同世代の方なんだけど。どう?連絡取ってみる?名前はブリジットさんって言うんだけど』