tête-à-tête 94

『やっぱりそういうことか、』

ホワイト・ヘイヴン中心部にある美術図書館、3階閲覧室。ここは階全体が閲覧所になっており、40、50台の書見台が等間隔でズラリと設置されている。そのうちの1台の前にマーティンは立ち、とある画集のページを1枚、1枚繰っている。

『進歩派ってのはアヴァリエ側だったわけだ。で、売れた作品の代価の一部で支援。穏健派ではあるものの、国王派とアヴァリエ派のどちらにつくかと言えば、後者。進歩って銘打ったくらいだから、当然と言えば当然かあ』

マーティンは画集に収録された進歩派の油彩画作品を1点、1点眺めながら、【18世紀のアヴァリエ→19世紀の進歩派→新アヴァリエ派とその残党】という流れのなかで、シリルのことをぼんやりと考えた。

『こういうのってやっぱり、気質とか親譲りってやつなのかなあ。お父さんとは2歳、3歳で別れたわけだよね。僕は僕で学生時代まで、明らかに生育環境に影響を受けたわけだけど……ま、僕のは洗脳ってやつか』

マーティンは洗脳という思いがけない言葉に笑いがこみ上げてきて、つい吹き出してしまった。するとマーティンのそばで図書館資料を閲覧していた数人の中年男性や初老の女性が、マーティンのほうを怪訝な表情で見る。マーティンが片手を上げ小声で『失礼』と謝罪すると、彼らはめいめいの作業に戻っていった。

笑えるというのはいい兆候だと、マーティンは思った。数年前の自分だったら、それこそ寝起きに悲痛な気分に襲われていたかもしれない。けれど少なくとも今日の今日は、自分の過去の境遇を笑ってやり過ごせる。だから昨日のシリルの思いつめた表情が、余計に気になってきた。マーティンはシリルが自分に何か言おうとしていたことそれ自体には気づいていた。書店のガラス窓のそばで立ち尽くしている姿を見たときから勘づいていた。

来週ブリジットさんに会うことを、シリルは喜んでくれるだろうか?マーティンは書見台を離れ、画集を元あった棚に戻しながら考えた。

『遙か昔、赤ん坊の頃の話で、本人にはまーったく記憶のない人に会わせるのは、所詮僕らのエゴに過ぎないんだろうけどさ。まあ、うまくいくといいな。シリルはどんな反応するだろう?ポーカーフェイスに5ペリエ賭けようか?』